それでも恋するバルセロナ - 岡本太陽

◆ヨハンソン、バルデム、クルスが共演!(85点)

 バルセロナには何かがある。人々はその街に引き寄せられ、妙な体験をしてしまうのだ。近年でバルセロナを舞台にした映画で印象的だったのは、おそらく 2003年の『スパニッシュ・アパートメント』が挙げられるだろう。これは主人公のフランスからの留学生が、バルセロナで彼の人生において忘れられない体験をするというものだった。そして今年、魅力的な街バルセロナが舞台の新しい映画が誕生した。『それでも恋するバルセロナ』と呼ばれるその映画は、なんと鬼才ウディ・アレン監督作だ。

 アメリカ人のヴィッキーとクリスティーナは夏の休暇のためにバルセロナに住むヴィッキーの親戚ジュディのところにしばらく泊めてもらう事になっていた。あるアートの展示会で彼女達はフアン・アントニオという画家の男の存在に気付く。そんな彼女達は彼に近づき、ヴィッキー、クリスティーナ、そしてフアン・アントニオは奇妙な三角関係を持ち始めるのだが、ある日、フアン・アントニオの精神的に不安定な元妻が現れて…。

 ウディ・アレンは2005年の『マッチポイント』以降、ニューヨークを離れ、イギリスが舞台の映画を3本作った。彼の近年の作品の中では『マッチポイント』は非常に高い評価を得ており、アカデミー脚本賞にもノミネートされた。『タロットカード殺人事件』『ウディ・アレンの夢と犯罪』を経て、リリースされる新作『それでも恋するバルセロナ』は物語の舞台をイギリスからスペインに移し、『マッチポイント』でウディのストーリーテリングのうまさを再び実感させられたのと同じ様な幸福感と充実感を与えてくれる。

 本作ではクリストファー・エヴァン・ウェルチのナレーションと共に2人のアメリカ人女性の物語は進行していく。このナレーション、ウディ・アレンの感性豊かな脚本、そしてバルセロナの美しい景色や街並みがこの物語はお伽話か何かの様にさえ感じさせてくれる。映画が「昔、昔あるところに」で始まってもおかしくはないくらいだ。それでいて、このアレン氏の脚本が妙にわたしたちの体験してきた事に密に接して来るのが奇妙でたまらない。

 そのお伽話風の物語の主人公ヴィッキーとクリスティーナに扮するのは、レベッカ・ホールとスカーレット・ヨハンソン。レベッカ・ホールは『プレステージ』に出演していたイギリス人女優。今回が初めてのウディ・アレン作への出演となる。ヴィッキーはニューヨークに婚約者がいるが、奔放なクリスティーナにいつも憧れており、バルセロナの空気が彼女の本心を気付かせてゆく。それから今回が『マッチポイント』『タロットカード殺人事件』に続き、3度目のウディ・アレン組への参加となるスカーレット・ヨハンソン演じるクリスティーナは人生模索中という設定。ヴィッキーとクリスティーナはバルセロナで現実逃避している間に災難に見舞われる。

 また物語の舞台がスペインということで、この2人の大物俳優の出演も本作の話題になっている。それは『ノーカントリー』のユニークな髪型の殺し屋アントン・シガーでアカデミー助演男優賞を獲得したハビエル・バルデムと『ボルベール<帰郷>』でアカデミー主演女優賞にノミネートされたペネロペ・クルスだ。バルデム演じるのはフアン・アントニオというアーティスト。彼との出会いがヴィッキーとクリスティーナの休暇を特異なものに変えてしまう。そしてクルスはフアン・アントニオの精神不安定な元妻マリア・エレナに扮しており、彼女は物語中盤から登場するにも関わらず、全ての登場人物の中で1番強烈な印象を残す。本作でのペネロペ・クルスのパフォーマンスは本年度のアカデミー助演女優賞にノミネートされてもおかしくはないものだ。

 この素晴らしい出演陣の中では女性の活躍が目立つ。ウディ・アレンに見初められているスカーレット・ヨハンソンは物語の始まりから彼女の魅力が全開。なかなか良い演技を披露している。ウディ・アレンと相性が良いのだろう。またダイアン・キートンやミア・ファロー等と同様にアレン氏がヨハンソンに性的に興味があるののが明らかで、彼女がどうしたら可愛らしく、そして可笑しく映るのか知り尽くしている様だ。そしてペネロペ・クルスの美しさもアレン氏は引き立てている。彼女の目つき、髪をかき上げる仕草、そしてやはりマリア・エレナの激しいキャラクターが抵抗仕様のない魅力的な女性を作り上げる。

 ウディ・アレンは長年ニューヨークの街で映画を撮り続けた。それはわたしたち観客にとってはごく自然な事であった。しかし、2005年から彼の冒険は始まった。それと同時にわたしたちから彼の映画に対する安心感というものが消え去った。『マッチポイント』から始まったイギリス3部作は皆英語を話すが、本作『それでも恋するバルセロナ』はスペイン語圏が舞台。わたしたちは彼の新作が一体どうの様な出来になっているのか恐る恐る観る事になるだろう。

 しかし、わたしたちのその期待と不安はこの映画の前に崩れ去る。なぜならアレン氏の書き上げた『それでも恋するバルセロナ』の脚本はやはりわたしたちの知っているウディ・アレンの物語であり、2人のアメリカ人女性のバルセロナでの後悔の滞在が皮肉的な笑いに包まれている。そして、その滑稽な彼女達の物語は2人のスペイン人元夫婦の登場でスパークする。これはまるでウディ・アレン作とアルモドバルの映画を足した様な映画だ。ストーリーテリングの天才ウディ・アレン、次回彼はどこで映画を撮るのだろうか。

岡本太陽

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