TO(トゥー) - 前田有一

これぞSFの醍醐味、技術の特性もマッチした傑作(85点)

 『TO(トゥー)』は、すでにレンタル中のオリジナルビデオアニメだが、2009年10月16日に六本木ヒルズの大スクリーンで一夜限りの上映が決まったので、急遽本欄で紹介することにした。

 地球軌道上に浮かぶ宇宙ステーション、通称「ミッドナイトバズーカ」は、今日も月面基地に向け、物資の射出作業が行われていた。そんなとき、リーダーのダン(声:大塚明夫)に知らせが入る。15年ぶりに輸送船フライングダッチマンが帰還し、地上に降りる前に一時寄港するというのだ。ダンはその報を複雑な思いで聞いた。フライングダッチマンの艦長マリア(声:朴路美)と彼は、かつて深い仲だったのだ。

 上記あらすじは一話完結の2作品のうち前半部にあたる「楕円軌道」のもの。後半は、植民地惑星の開発をめぐり東西陣営が対立する中、愛し合う両陣営の男女二人の物語「共生惑星」となる。

 なぜこれをいま紹介するかといえば、本作はそこらの劇場上映用アニメーションがはだしで逃げ出すほどの、異様に高いクオリティを誇る傑作だからだ。

 とくに、ミッドナイトバズーカの造形美、ディテールの描き込み、そしてアクションの流麗さときたらない。曽利文彦監督は「これを一度映像にして動かしたかった」と熱く語っているが、まったくもって、この宇宙ステーションの迫力はすごい。全体がバズーカ砲のようになっており、巨大コンテナを月に向け、無重力空間へ射出するというアイデア、スケール感には圧倒される。こういうメカの描写とくれば、やはり3D-CGに勝るものはない。

 そう、本作は曽利監督がコツコツと進化させてきた3Dライブアニメの最新作。「アップルシード」や「ベクシル」から、さらに進んだ驚愕映像を楽しめる。コンピュータアニメの質感は、宇宙ものとは相性抜群。さらに今回はいよいよ女性のヌード描写にも挑戦し、技術のポテンシャルの高さを認識させてくれる。

 こうした先進的な技術の話題を出すまでもないが、実写、アニメともこの監督の映画は、映像面ではすでに世界レベル、文句の付け所はない。それはつまり、お話さえ面白ければ自動的にいい映画になるということだ。そこに、どれだけの労力とアイデアをつぎ込めるかが焦点となる。個人的には、本格的な社会派の脚本が書ける人と組んで、エンタテイメント性の高い現代劇を実写で撮ってもらいたいと思っているのだが。

 さて、その点本作は、星野之宣のSFコミック『2001夜物語』の中から2作品を映画化したもの。SF界で長年高い評価を得ている名作であり、不足はない。そして、何より評価したいのは、『TO(トゥー)』はその脚色が、非常に上手に行われているという点だ。

 たとえば「楕円軌道」は、主人公とヒロインの関係がある種の謎めいたものになっているが、原作では物語上の起伏と謎の種明かしのタイミングがわずかにずれており、少々不満が残る。絵柄のせいということもあるが、人物の心のドラマの表現もやや不器用なところがある。構図なども地味だ。

 しかし映画版はこれらを完全に解消し、奇をてらうことなく、そして原作のムードを踏襲しつつも、よりドラマティックに演出。SFらしい設定を生かした感動を味わえる。これは「共生惑星」でも同様。こちらは未来版ロミオとジュリエットのごとき恋愛物語だが、テーマも明確で気持ちよく見られる。

 原作の中からこの2作品を選んだというのも、ミッドナイトバズーカをこよなく愛する監督の好みはともかく、ライブアニメ向きという点から適切だったと思う。白い胞子におかされた人間の美しい色合いなどは、モノクロのコミックではどうしても表現できないだろう。ミサイル攻撃シーンなど、思い切り派手に追加されたアクションシーンもしかり、だ。

 3Dライブアニメは、今回のように実力派の声優が激しい演技をすると、表情とのギャップが大きくなるのが難点と思っていたが、本作はそもそもそうしたシーンが少なく、アラが目立ちにくいのも良かった。そして、わずかな表情の変化も、よく表現できるようになってきた。セルアニメ風の塗りの質感が、これが日本製であることを主張しているようで良い。世界市場で流通するこうした作品には、それは見逃せない大切な要素である。

 静かで、哲学的で、普遍的なテーマを時空を越えた感動物語として描く。アクションや戦闘ではなく、これぞSFの醍醐味。すぐれた脚色は、傑作短編の作り方の見本ともいうべき完成度。3Dライブアニメとしてはもちろん、曽利文彦監督による全作品中でも、『TO(トゥー)』は最高レベルの傑作といえる。

前田有一

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