THE TEN - 岡本太陽

モーゼの十戒に基づく映画(50点)

 わたしが子供の頃にテレビで『十戒』という映画をやっていた。セシル・B・デミルが監督したその映画は製作期間10年を費やした超大作。228分という上映時間からテレビ放送では週をまたいで2日に分けて放送された。子供ながらに興味を抱いてこの映画を観ていた記憶がある。このモーゼの十戒について、セシル・B・デミルの作品とは趣向の違う作品がある。デビッド・ウェインの監督する『THE TEN』という映画だ。これはモーゼの十戒に基づく10のショートストーリーからなる映画だ。

 この『THE TEN』を監督したデビッド・ウェインはほとんど日本では馴染みがないはずだ。アメリカでも彼の名前を知っている人はそういないが2001年に公開になった『Wet Hot American Summer』の監督といえばピンとくる人もいるかもしれない。今回の『THE TEN』と『Wet Hot American Summer』等、なかなか戦略的で際どい作品を作る監督だ。

 そしてこの映画には豪華な俳優陣が集った。ナレーター役に現在乗りの乗っているポール・ラッドを迎え、その他ウィノナ・ライダー、ジェシカ・アルバ、アダム・ブロディ、ファムケ・ヤンセン、グレッチェン・モル、オリバー・プラット、ジャスティン・セロー等が共演している。一番印象的だったのが、ウィノナ・ライダーの役だ。ウィノナ・ライダー好きとしては彼女のキュートでかっこいい女を拝見する事はできなくて残念だったが、彼女の我を捨てた貴重な演技を観る事ができた。それからジャスティン・セローはいつになく変態チックで良かったし、最近良く名前を目にするアダム・ブロディもアホっぽい感じで好感が持てた。期待の若手俳優だ。ジェシカ・アルバはルックスは抜群なのだが、この映画の中でブリっ子を演じており観ていて気持ち悪い心地がした。

 ユダヤ教のルーツともなった十戒だが、それは何か御存知だろうか?『1:あなたはわたしのほかに、何ものも神としてはならない。2:あなたは自分のために刻んだ像を造ってはならない。3:あなたは、あなたの神、主の名を、みだりに唱えてはならない。4:安息日を覚えて、これを聖とせよ。5:あなたの父と母を敬え。6:あなたは殺してはならない。7:あなたは姦淫してはならない。8:あなたは盗んではならない。9:あなたは隣人について、偽証してはならない。10:あなたは隣人の家をむさぼってはならない。』この10の戒律の元にユダヤ教は生まれた。そして映画『THE TEN』は1つの戒律につき1話のストーリーを与えている。全てが馬鹿馬鹿しいコメディで、もしユダヤ教の人が観たら抗議を訴えられるのは免れない様な話ばかりだ。例えば、ウィノナ・ライダーが腹話術の人形を盗み犯したり、キリストとの恋によって性の快楽に目覚める女の話があったり、患者の手術中に鋏を体内に放置したまま手術を終える医者等、かなりモラルの崩壊した様な内容だ。

 『THE TEN』はただの映画好きのための映画ではない。きっとただの映画好きが観てもこの映画は笑えない。なぜならとてもアメリカっぽい作品だからだ。アメリカの文化などを理解していないとなかなか笑えないかもしれない。日本で公開されるかは分からないが、皮肉社会アメリカを存分に感じられる映画である。

 10 のストーリーは全てジョークであるが、戒められた10の戒律のうち半分くらいは、ユダヤ教徒でなくとも当然の如くやってはいけないことである。しかしながら私たちが生きる社会の中ではそのどれもが行われている。盗んではならない。何故?人を殺してはならない。何故?父と母を敬わなければならない。何故?馬鹿馬鹿しいストーリーを通して、人としてのあり方を問いかけるものが根底にある。しかしながら、作品のアイデアは良いがなかなか心に響いてこない。観客はただの馬鹿映画を観たという気持ちになるだろう。なんとも惜しい映画だ。

岡本太陽

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