過酷な大自然に翻弄されながらも立ち向かう人間という構図は良かったものの、自然の力が大き過ぎて人間の矮小さが目立ってしまったのが惜しい(点数 73点)
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アニマトロにクスがうまく活きていた。狼との格闘シーンや、今まさに息絶えようとする狼の身体に俳優が触れて演技するシーンはリアリティがあり、やはりCGだけでは迫真ある演技は難しかっただろう。
極限状態の中で生きる人間の意志がこの映画のテーマのようだけれど、自殺を図った主人公のオットウェイが生きることに執着する理由をもうちょっと掘り下げて説明してくれるとかなり深いドラマになったように思う。
映画ではオットウェイが最愛の女性を喪ったことによる絶望のために生きる気力まで失っているように描写されるのだが、飛行機事故に遭いアラスカの山中に投げ出されて必死のサバイバルをするものの、死の誘惑に絡め取られることなく生き抜こうとする動機の説明が不足しているように感じられた。
オットウェイは強いリーダーシップを発揮して生き残った仲間とともに人食い狼のテリトリーからの脱出を試みるのだけれど、その行動力と狼の生態に対する知見には感心するのだが、焦がれるような生への執着の説明が弱いばかりに義務的に行動しているような印象がしてしまうのである。
リーアム・ニーソンの寡黙な演技がここでは裏目に出てしまっているように思えた。オットウェイの心境の変化が説明不足のために心理のダイナミズムが駆動しなかったのは残念であった。
只、父親の残した一編の詩に影響を受けてオットウェイが自死するのを躊躇ったととも解釈することが出来る。孔子は「朝(あした)に道を聞かば夕方に死すとも可なり」という言葉を残しているが、オットウェイの父親も似たような詩を書いている。
その詩には「最強の敵と戦うことが出来れば悔いは残らない」という内容の詩だったのだが、彼の闘争心に火をつけた一編の詩がなぜ彼をそう思うまでにさせたのかの説明がここでも不足している。
そうなると見るべきものはアクションシーンということになり、映画の比重は辛うじて生き残った仲間がいかに酷い死を迎えるのかという残酷な好奇心が残ることになる。
どうも映画のカテゴリーとしてはホラー映画の範疇に入っているような気がしてならない。
極寒のアラスカはスクリーンを通しても寒々としたものがあり、夏に公開されるのはまさに好機と言える。
納涼度は高いので猛暑となりそうな今夏は涼みを期待して観るのも良いだろう。
(青森 学)