運命のボタン - 岡本太陽

◆そのボタンを押すか押さないか、とんでもない結末を招く選択!(70点)

 全ての原因は結果を伴う。始まりはどんなに小さな事象であっても、後にとてつもなく巨大な何かに繋がってしまう事もあるのだ。若手映画監督リチャード・ケリー最新作『運命のボタン』はそんな普遍の真理を扱った意欲作。本作の主人公のとある夫婦は、ある日突然、実に奇妙で辛辣な選択に直面する。そして同時に、本作は「あなただったらどうする?」と、観る側にもその選択を突きつける。

 1976年アメリカ・ヴァージニア州リッチモンド。ノーマ&アーサー・ルイス夫妻(キャメロン・ディアス&ジェームズ・マースデン)は息子ウォルター(サム・オズ・ストーン)と幸せに暮らしていた。ある日夫婦がまだ眠っている早朝 5時45分頃、玄関のドアベルが鳴る。不信に思いながらも、ドアを開けるノーマ。すると黒い車が去って行く。ノーマは家の前に1つの小包が置かれているのに気付く。その中には球状のガラスのカバーの付いたボタンの付いた鍵が掛けられた箱と"スチュワード氏が午後5時にお伺いします"という紙切れが入れられていた。

 そして午後5時、アーリントン・スチュワード(フランク・ランジェラ)という顔の半分がノーマの待つ家を訪れ、こう告げる、「もしカバーを開け、24時間以内にボタンを押していただければ100万ドル(1億円相当)差し上げます。その代わりにあなたの知らない誰かが1人死にます」と。スチュワード氏の言った事に疑心暗鬼になるノーマとアーサー。彼らの選択は彼ら自身の人生を翻弄する事となる。

 監督のリチャード・ケリーは子供の頃に「新トワイライトゾーン(1985年)」の「欲望のボタン」というエピソードに強く影響を受けたという。それが『運命のボタン』を制作するにあたってのインスピレーションとなり、テレビ放送されたエピソードの原作であるリチャード・マシスンの同名短編小説を基にケリー氏自身が脚本を書き上げた。ケリー氏は『ドニー・ダーコ』『サウスランド・テイルズ』と、主要人物の死が人々を救うという「犠牲」の物語を作り出したが、実は今回の『運命のボタン』も誰かの犠牲が物語の結末を大きく揺るがす。ボタン式のボックスから始まり、犠牲の物語へと転換してゆく巧妙な仕掛けが本作の大きな魅力である。

 キャメロン・ディアス扮するノーマは私立高校で文学を教えている教師。彼女はある日授業中に、1人の男子生徒にどうして右足を引きずりながら歩いているのか、と質問される。そして躊躇しながら彼女が見せるのは4本の指のない足。そしてその日、彼女は仕事を失う。なんていう1日。一方、ジェームズ・マースデン扮するアーサーはNASAで火星探索用のカメラ等を作る技術者として働く傍ら、宇宙飛行士になる事を夢見ている。彼は仕事に励みながら、妻が足を引きずらずに歩ける様、足にはめ込むパットを妻には内緒で開発もしている。長年寄り添いながらも、愛の絶えない夫婦の絆を見せ、またこの家族に経済的不安を与える事で、ボタンを押す必然性を描き出してゆく。

 ジェームズ・マースデンは最近俄然演技面で注目される様になった俳優で、今回は苦しむ夫を熱演。キャメロン・ディアスも今回は暗めでシリアスで、あまり彼女のイメージにはない演技を披露していて観る側には非常に新鮮だ。ただこの2人が夫婦である事がどうも信じ難く(見た感じから不自然)、ジェームズ・マースデンがNASAの技術者というのも似合わない。ただ物語が進むに連れて、夫婦としての違和感はどことなく徐々に解消されていく様にも見受けられた。

 この映画は予想を遥かに超えた展開の連続。前作『サウスランド・テイルズ』もそうだった様に、本作も賛否両論を招くのは免れない。物語中に、胸を銃で打たれた人妻、鼻血、ピースサイン、3つの水柱、雷、誘拐等と、謎だらけのエピソードが登場し、謎のアイデア自体はヒッチコックのサスペンス風ではあるが、本作の場合、多くの人を混乱させてしまう伏線の張り巡らせ方がされている。それは大ヒットテレビシリーズ「LOST」を思い起こさせてしまうものとも言え、難解なストーリーを読み解いていくのが好きな人には興味深い映画だが、そうでない人にはただ単にわけが分からないという結果を導く。

 リチャード・マシスンの原作短編小説はほんとうに短い。それをこれほどまでにあらゆる事が起こる物語に膨らませてしまったリチャード・ケリーの想像力はやはり凄い。もし彼の素敵なアイデアをうまく整理する人がいれば、本作は奇妙で怖くて、それでいて感動させられる素晴らしい映画になっていたはずだ。たった1つの小さな選択のせいで、主人公の夫婦がまさかあんな運命を辿ろうとは。人生っていうものは何が起こるか分からないのだ。

岡本太陽

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