Rocket Science - 岡本太陽

サンダンス映画祭で話題になった映画(70点)

 2003年にアメリカで公開されたあるドキュメンタリー映画がある。その映画は毎年900万人の子供達が参加する全米スペル暗記大会(National Spelling Bee)のファイナルに参加する子供数名を追った作品だ。その映画のタイトルは『Spellbound(チャレンジ・キッズ)』という。アメリカ故に子供達の人種も様々、背負ったバックグラウンドも様々。そんな彼らがチャンピオンになるために挑戦する。わたしは公開当時はなんとなく観たのだが、予想と違ってかなり強烈な作品だったことを覚えている。

 このドキュメンタリー映画『Spellbound』を監督した、ジェフリー・ブリッツが長編映画初監督した『Rocket Science』という映画を観てきた。この作品は今年のサンダンス映画祭で非常に話題になり、ジェフリー・ブリッツはドラマ部門の監督賞に輝いている。出演者には有名な俳優は起用しておらず、ほとんどが初めて見る顔だった。主役のリース・トンプソンも数本映画に出演しているが、目立った役はなかっただろう。『Rocket Science』はアメリカでは8月中旬公開の作品だ。

 アメリカはニュージャージー州に住む高校生ハルは、人と会話するときにどもりがひどく悩んでいる。そのどもりのせいで言いたい事もロクに言えず、食べたい物も注文出来ない。ところがジニーという同じ高校に通う女の子と出会い、彼女の所属するディベートクラブに参加し、それがきっかけでハルに変化が訪れる。恋や人生の苦さを経験しながら少しずつ成長していく少年の物語だ。

 多くのインディペンデント系青春映画のように、この『Rocket Science』も青臭くとても痛々しい。どもりがひどく人に何を言いたいか伝えられないもどかしさは、どこかでどもりがない人にも同じ様な経験はあるだろうし、わたしは外国に住む身として、母国語ではない言語で自分の表現したい事を十分に表現できないときの悔しさを知っているので、主人公ハルの気持ちは痛い程良く分かった。

 恋にしてもディベートにしてもハルには十分に可能性はあるのだが、それが打ち砕かれ、自暴自棄になったりしながら少しずつ成長していくし、多くの事は予測不可能であることも理解していく。そして自分のことも徐々に理解していく。『Rocket Science』は単に子供から大人に成長していくという物語というよりは、自分を探すという意味の成長の物語だ。

 この映画は特に新しい感覚を得られる作品ではないが、笑いを交えながら、笑いのツボに痛みも同時に反映させる様な作品だ。ウェス・アンダーソンの映画が好きな人は結構気に入るかもしれない。ちょうどノア・バームバックの『イカとクジラ』とウェス・アンダーソンの初期の作品(例えば『天才マックスの世界』や『アンソニーのハッピーモーテル』)を足して2で割った様な感じのコメディ&ドラマになっている。DVDでも買って何回か観て、自分の中でゆっくり育てていきたい作品だ。

岡本太陽

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