PUSH 光と闇の能力者 - 山口拓朗

◆映像以上の"熱気"が伝わってこない(55点)

 かつて国家によって育成された特殊能力者たちは、世界各国で身を潜めながら生活していた――。舞台は現代の香港。ある日、【ムーブ<念力で物が動かせる>】の能力をもつニック(クリス・エヴァンス)のもとに、【ウォッチ<未来予知力>】の能力をもつ13歳のキャシー(ダコタ・ファニング)が現れて、闇の政府機関「ディビジョン」から脱走した同じく特殊能力者の女性キラ(カーミラー・ベル)を一緒に捜してほしいと頼まれる。ニックは一度は断るが、間もなく「ディビジョン」が送り込んだ特殊能力者たちに命を付け狙われ……。

 特殊能力をもった人間がこれだけ大勢いれば、世の中大変なことになりそうだが、特殊能力者の皆さんときたら、節度をわきまえているらしく、一般人の前で「どうだ、すごいだろ!」と能力をひけらかすことはあまりしない。映画は、謎めいた裏社会を舞台に、分かりやすい「特殊能力者(善) VS 特殊能力者(悪)」の攻防戦を描く。

 特殊能力対決のハイライトは、「波動拳」や「カメハメ波」級の大技が飛び交うビル建設現場でのシークエンスだ。アクションゲームを見ているかのような派手な映像はファンタスティックで楽しめるが、そこに迫力やスリルが感じられないのが玉に瑕。映像以上の"熱気"が伝わってこない。

 それは、特殊能力者に関する説明描写があいまいなうえ、彼らのバックボーンの描き込みが甘いことも原因なのだろう。闇の政府機関が関与する陰謀うず巻くドラマにしても、あまりに肉付けが乏しすぎて、さっぱり感情移入できない。唯一、主人公一味が一発逆転を狙って頭脳的な奇策に打って出るくだりだけが、爽快な気分を味わわせてくれる。

 すっかり大人びてきたダコタ・ファニングが、達者な演技で物語をさり気なくけん引するが、主演のクリス・エヴァンスや物語のカギを握る女性を演じたカーミラー・ベルに、観客を引き付けるだけの華がないのが残念だ。「ディビジョン」のリーダーに扮したジャイモン・フンスーも、持ち前の存在感を示しきれていない。

 香港の雑踏&喧噪をスタイリッシュに活写した、妙にエキゾチックでミステリアスな絵作りは悪くない。しかしながら、あまりに底の浅い設定と脚本がウイークポイントの「PUSH 光と闇の能力者」。超能力や魔法の類いが好きな人にはオススメできるが、「ハリー・ポッター」クラスのスケールと練り込まれた世界観を期待すると空振りに終わるだろう。

山口拓朗

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