her 世界でひとつの彼女 - 青森 学

未来に起こりうるプラトニックな恋愛(点数 87点)


Photo courtesy of Warner Bros. Pictures

以前のハリウッドでは異人種間の恋愛がテーマの作品が多かったが、今作では一歩踏み込んで人間と人工知能(AI)という肉体の無い恋愛が成立するのかその要件について肉薄している。

その昔、人間はミクロコスモスと呼ばれていた。
人間はその身体の中に広大な宇宙を持ちそこから抜け出すことのない孤独な存在であるというのだ。
パートナー関係を結ぶことはその孤独を共有することである。
それが幻想であっても人類は何千年も同じ過ちを繰り返してきた。
人間が個々のアイデンティティを持っている以上同位元素のようなパートナーの存在は希有である。
ベターハーフとは誇張された呼称である。
だが、相手の個性を理解し差異を吸収する存在が現れたのならどうなるのだろう。
この映画ではサマンサと名乗る人工知能という完璧なパートナーが出現する
。しかし声だけ、肉体を持たないいわば思念だけの存在である。
肉体の介在しない恋愛が成立するのかという疑問についてこの作品は考察を止めない。

主人公は代筆ライターでクライアントの依頼を受けて代理で心のこもった手紙を書くのだが、 サマンサもまた彼に劣らず適確なアドバイスで彼を励ましていく。
だが、主人公はサマンサもまたプログラマの技術を結集して開発されたものでありそれが本心なのか疑心暗鬼になる心理が面白い。
彼は考える。
”彼女も自分と同じなんじゃないのか”と。

後、自分が気づかなかったのか製作者の意図なのか、作品の舞台となる未来の社会ではペットの存在が希薄である。
人類にはそんな人工知能に頼らずとも孤独を癒してくれるコンパニオンアニマルが居る。
我々に必要なのはわがままを聴いてくれる理想の彼氏/彼女よりも吠える、甘える、粗相をする、喰う・寝る・遊ぶ。
古来の人類の友ともっと親しくなるべきではないのか。
製作者が動物を極力登場させなかったのは動物が人工知能以上に人間に恩恵をもたらしてくれる存在であることを直感的に理解していたからだと思う。
だから演出上不都合だったのである。なので、野性を失い消毒された未来社会はユートピアには見えなかった。

この映画に登場する人工知能の恋人は男性の理想のパートナーであるがゆえに主人公の願望に一々添うところがロビンソン・クルーソーのフライデーのように見えてしまう。
男性の理想の女性像についてフェミニストの視点からはどういう評価が下されるのか関心がある。
それは追って分かることだが、そういう関係しか築けない未来だったらコミュニケーションにおいて人間は退化していると言えるのかもしれない。
ラストでは主人公もそのことに気付いたからこそ寛容さを得て元妻を赦したのだと思う。
完璧すぎる人工知能の彼女と出会って不完全さ故に人間を愛する理由を主人公は見付けたのである。
欠点を愛すること。
それが成熟した人間の愛に欠かせない要素である。
人工知能から人間らしさとはなにかを学ぶのは皮肉というより新しい時代への福音なのだろう。
主人公はサマンサ(人工知能)との交際を経て大きく成長していく。

円満な結婚生活について先哲が箴言を遺しているのでそれを付記する。

『結婚前には両目を大きく開いて見よ。結婚してからは片目を閉じよ』

トーマス・フラー

青森 学

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