◆19世紀の原作が今でも通用することの意味(80点)
チャールズ・ディケンズの原作は、これまで50回以上も映像化されたといわれるほどだから、あらすじは誰もが知っていることだろう。本作のタイトルにあるディズニーも、以前にアニメーション作品として発表したことがある。
だがしかし、今回のそれは驚くほどタイムリーで、かつ適切な映画化だったのではないかと強く感じた。
19世紀半ばのロンドン。金貸しの守銭奴スクルージ(声:ジム・キャリー)はクリスマスイブに浮かれた世間に悪態をつき、寄付を求める貧しい人々にも怒鳴り帰す始末。町の嫌われ者であるそんな彼の前に、かつての共同経営者で7年前に亡くなったマーレイ(声:ゲイリー・オールドマン)の亡霊がやってくる。
守銭奴の男がクリスマスの奇跡(それがどんなものかは未見の方のために伏せる)を体験して、自らの過ちに気づく教訓的な感動ストーリー。
この原作が発表されたのは、かつてイギリスが「日が沈まない帝国」=覇権国家として君臨していた19世紀の半ば。庶民の貧困生活をリアリティ豊かに描くと同時に、富めるものの傲慢さを戒め、助け合う大事さを語るその内容は、当時の激しい格差社会で生きる人々の共感を集めた。
時が過ぎて今、同じように覇権国家でありながら世界有数の格差社会となったアメリカ。そこでこの、金融マンが痛い目にあう物語を公開するのだから、さすがは時事ネタ連動性の高いハリウッド。涼しい顔で古典を映画化しているように見せながら、その実、金融危機でこっぴどい思いをしたウォール街のエリートたちに倫理の大切さを説いている、というわけだ。
それでも、単なる金持ち叩きでなく、スクルージを魅力的で説得力あるキャラクターにするあたりがうまい。いま、この映画にシンパシーを感じる人は、限りなく多いはずだ。
ディケンズからの教訓は、英国から米国に覇権が移り変わった現代でも、まったくもって有効である。人類の歴史は常に繰り返しである事が、この内容が古びていないことからも証明されている。
この、古いが新しいストーリーを、最新のデジタル3D作品として映像化するあたりも心憎い。しかもこの立体加減がじつにメリハリを感じさせるもので、私が今年みた中でも一番の「飛び出し度合い」であった。音響も立体感にあふれ、まるで雨音につつまれるような体験をすることができる。アクションシーンとドラマの切り替わりのバランスもいい。
ロバート・ゼメキス監督が「ポーラー・エクスプレス」「ベオウルフ/呪われし勇者」と進化させてきたパフォーマンス・キャプチャー&CGアニメーションの技術は、ここで頂点に達した。子供が本気で怖がってしまうであろう不気味なビジュアルも素晴らしい。ラストシーンはもっと明るい色調にして、そこまでのダークなムードとのコントラストを強調したいところだが、これが立体映画の限界か、やや不発気味。そこが唯一、惜しいところだ。
小さな子供のいる方は、こういういい映画を積極的に鑑賞してほしいと思う。
(前田有一)