BIGGER, STRONGER, FASTER* - 岡本太陽

アメリカのステロイド事情を追う驚きの映画(70点)

 わたしがまだ小学校低学年だった頃にソウルオリンピックが開催された。その時に、ベン・ジョンソンが100m決勝で9秒79の世界新記録を叩き出して優勝したが、競技後の検査で薬物使用が発覚し、金メダルは剥奪された。その薬物とはステロイド。そしてそのステロイドを追うドキュメンタリー映画が誕生した。『BIGGER, STRONGER, FASTER*』というその映画は2008年のサンダンス映画祭でワールドプレミアを迎え、トライベッカ映画祭でも披露されている。

 『BIGGER, STRONGER, FASTER*』の監督はクリストファー・ベル。アーノルド・シュワルツェネガー、ハルク・ホーガン、シルヴェスタ・スタローン等に憧れ、ステロイドを使用し続けている彼の兄と弟のエピソード、またプロスポーツ選手、医療関係のエキスパート、フィットネスセンターのメンバー、そして米国下院議員等にステロイドに関するインタビュー等を通して映画は綴られる。また、この映画ではマイケル・ムーアのドキュメンタリー映画の様に監督自身がナレーション、インタビュアーを務める。

 ところで、ステロイドとは何なのか。簡単に言うと、筋肉を増強させる薬物。ステロイドは高校生でもインターネット等で簡単に購入する事が出来るが、副作用が生じ兼ねない注意が必要な薬物だ。副作用として鬱に陥ったり、男性であれば睾丸の縮小等を伴う事もあるという。

 上に述べた様にベン・ジョンソンはステロイドを投与したとこがバれてしまい金メダルを剥奪された。だが、彼以外にも多くのスポーツ選手が薬物検査に引っ掛かったり、ステロイド使用の疑いを掛けられている。筋肉を増強させるという事実から、スポーツ界においてはステロイドの使用は公平ではないと見なされているが、この映画では、どこに「公平」さのラインを引くのかという疑問もわたしたちに投げかける。デヴィッド・ベッカムに代表される様に現在多くのスポーツ選手が酸素カプセルを使用している。これはカプセルの中に入り、眠っている間に酸素を摂取する事で乳酸の分解率が上がり、疲れを急速に取り除いてくれるというもの。薬物摂取ではないため、現在酸素カプセルの使用を指摘される事はないが、これも自然な事ではない。

 またわたし個人が一番興味を抱いたエピソードはアクションフィギュアのG.I.ジョーの歴史だ。発売当初の1960年代のものはただ体の引き締まった外見だったのだが、時が経つにつれ、それは劇的な変化を見せる。どんどん筋肉隆々のマッチョになっていくのだ。また、フィギュア以外でもアーノルド・シュワルツェネガー等に代表されるフィットネスのロールモデル達が筋肉隆々なため、人々はそうなることがカッコいい、正しいと思う様になる。そして辿り着く先がステロイドなのだ。

 クリストファー・ベルは『BIGGER, STRONGER, FASTER*』の中でステロイドを追うが、彼が最終的に辿り着いたのは、ステロイドの使用はアメリカ社会を反映しているという事。筋肉は力の象徴。よってその筋肉増強剤の使用はどの国よりも強くありたいと願う、いや、アメリカは最強と信じているアメリカ独特の考えに基づくものだと結論付けている。ステロイドという薬物についてのドキュメンタリーではなく、なかなか深い所までエグった作風は賞賛に値する。アメリカをロールモデルにしている日本でもスポーツ選手以外の一般の人の間でステロイドの使用が広まってしまう日も実はそんなに遠くはないのかもしれない。

岡本太陽

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