現代アメリカを象徴する家族の軌跡。(点数 85点)
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道具を使って研磨したダイヤであれ、機械を使って研磨したダイヤであれ磨かれたダイヤであることには変わりがない。
素材の良し悪しはともかく完成した作品の出来そのものが評価される。
それが揺るがしようのない事実である。
映像作家は素材にこだわることがままあるが、いくら素材にこだわっても出来栄えとの因果関係はそれほど明確ではない。
素材が良くても失敗に終わった大作なら枚挙にいとまがない。
しかしながら12年間の撮影を通して家族の肖像を精緻に描いて見せた今作は成功であったと云える。
ストーリーに映画らしい起伏は無いものの大河のようにうねり、多くの時を呑み込んで生まれた今作は時間の経過と共に生じる人の『変化』と成長を上手く写実化している。
ストーリーが登場俳優の成長につれ、紆余曲折していく。
主人公たちが様々な経験を積んで成長していくように、ストーリーも単なる予定調和では終わらない。
熱烈な民主党支持者だった少年の父親(イーサン・ホーク)は見るからに保守的な両親を持つ女性と再婚する。
そこには登場人物の成長とともに考え方も変わり変化を受け入れる様子が見て取れる。
映画のストーリーは決められた粗筋に従って進むのではなく、時を経るに従って変化していく人間の様態を活写する。
この映画に伏流するテーマは変化していく人間の“心”そのものである。
少年の母親であるオリヴィア(パトリシア・アークエット)は当初はシングルマザーだったのが、生活の安定のために学問を志して大学に進学を決断するストーリーはアメリカが再チャレンジする人間に対していつでも門戸が開かれていることの表明だし、競争社会であるアメリカでもチャンスは平等にあるというメッセージが込められている。
映画のラストでもその思想を登場人物に語らせてそのメッセージをリフレインしている。
結局のところ典型的なアメリカのイデオロギーがハリウッド映画のファンにとっては心地よいのである。
チャンスの平等と再チャレンジの2セットを、手を替え品を替え様々なかたちで主張される。でも、それを観て映画ファンは溜飲を下げるのだ。ハリウッド映画が鉄板なのは、アメリカのポリシー自体が”映画的”なのだからである。
時代が進むにつれブラウン管だったiMacがノート型パソコンに変わり調度品が微妙に変わっていく。
近代社会の数十年にわたる技術革新と生活スタイルの劇的な変化でここ20年くらいの各年代の生活感を再現するのは難しいと云われているが、この作品は言わば天然のセットを使っているので再現性はもちろんのこと時代考証も完璧なのである。
普通の映画であれば時代が下るとテロップなので明確に表示されるが、今作はそういった演出はなく、ただ登場人物の加齢による変化だけで過ぎ去る時間の長さを表現している。
こういう演出はたぶん今作が初めてなのかもしれないが、とても自然で以前もこのような演出があったと錯覚してしまうくらいだった。
(青森 学)