エーミルの葛藤が、同胞が殺し合う悲惨さ以上に強烈な印象を残す作品だった。(点数 60点)
男は殺され、女は犯されてから殺される。敵に対する容赦なき制裁、
国と国の戦争ではなく同国民同士の階級闘争においては、俘虜への情
けなど一切必要ないとばかりに、降伏した彼らに銃弾を撃ち込む。映
画はそんな状況に置かれたインテリ階層の苦悩を、1人の女捕虜の扱い
を巡って重層的に描く。あくまで理性的に振る舞おうとする准士官、
信念を曲げない女赤軍兵、そして人文主義の大家といわれた軍事裁判
所判事。愛も理想もヒューマニズムも、圧倒的な暴力の前ではうたか
たのごとき非力なものに過ぎないのだ。
1918年、内戦中のフィンランド。赤軍女性部隊は白軍に包囲され投降
するが、捕虜は全員白軍兵にレイプされた上に銃殺される。白軍兵の
アーロは唯一の生き残りのミーナに裁判を受けさせようと移送する。
軍規を守りミーナを保護するアーロは、ミーナの誘惑に耐える一方で
彼女の美しさに心を奪われていく。女である悲劇に見舞われながらも、
女の武器を使って生き延びようとするミーナ。裁判を受けるために収
容所に到着した後も、その姿態で判事のエーミルに媚びを売り、美貌
という鎧の下から感情を小出しにして男たちの心理を翻弄していく。
ミーナに代表される“民衆の怒り”とは対極的に、エーミルの抱える
“知識人の孤独”が鮮明だ。戦場では教養のあるものは皆無、ゲーテ
の詩を諳んじるアーロとの出会いは僥倖だったはず。エーミルの葛藤
が、同胞が殺し合う悲惨さ以上に強烈な印象を残す作品だった。
(福本次郎)