30日間逃げ場なし!(45点)
吸血鬼が日光に弱いというのは、今では広辞苑に載ってもいいほどの常識。しかしよく考えてみると、この地球の地軸は傾いているため、地域によっては一日中まったく日が昇らないケースが存在する。それは白夜の反対=極夜といって、主に極圏で見られる現象。つまり、ここにこそ吸血鬼たちの安全地帯があったというわけだ。
北米最北端、アラスカ州のバロウが極夜を迎えた。町の人々は30日間も続く闇夜に備え、準備を怠らない。ところがその初日、貴重な労働力でもある犬たちが何者かに惨殺される。続いて停電、通信の遮断が巻き起こり、この地区は外部から孤立。保安官のエバン(ジョシュ・ハートネット)とステラ(メリッサ・ジョージ)は異変の解明に駆け回るが、事態は彼らの想像を超えた最悪のものだった。
気づいたときにはときすでに遅し。吸血鬼たちはひさびさのご馳走にありつこうと、時間無制限食べ放題タイムを、てぐすね引いて待っていたのだ。かくして、町の人々の、30日間にわたるサバイバルが始まった。
ホラーアメコミの映画化である本作の監督はデヴィッド・スレイド。『ハード キャンディ』(05年)では、出会い系で食いまくるつもりが食べられてしまったでござるの哀れな男を描き、全世界の男性を恐怖に陥れた。本作も同じくらい、魅力的なアイデアの企画だ。
ところがこの素敵なアイデアを、残念ながら今回はものにできていない。
まず、30日間真っ暗闇の設定を生かしていない。短いようで長いこの日数を2時間弱で描くため、あまりにポンポンと日にちが過ぎていく。これはいけない。
他の吸血鬼映画の人々は、たったの一晩を生き残るのに血がにじむような努力をしているというのに、この淡白な時間の経過はどうしたものか。わずか一日を生き延びることがいかに困難か、すごいことか。そのキツさを描いていない。その結果、怖さが通常の30倍の薄味になってしまった。
さらに、吸血鬼どもの抜け目ない捜索能力をしっかり伝えていないため、その凄みも伝わらず、吸血鬼側との知恵比べ、だましあいに緊迫感が生まれない。この手のサバイバル劇では、ただただ隠れ、やがて一か八か出て行って食われ、の繰り返しになることだけは、避けねばならない。
この監督は、大人気イケメン吸血鬼シリーズ「トワイライト」の3作目の監督に決まっているというが、今回の経験を生かして、なんとか次は傑作をものにしてもらいたいところだ。
(前田有一)