17歳の肖像 - 小梶勝男

17歳の肖像

◆ビートルズ登場以前のイギリス・ロンドンで、大人の世界に憧れる中流階級の少女を描く。主演のキャリー・マリガンの魅力と、少女の気持ちにぴったりと寄り添った演出で、新鮮で心を打つ作品となった(91点)

 世間知らずの少女が、年上の男性とロマンチックな恋に落ち、大人の社会を体験していく。よくあるストーリーだが、魅力的なキャストで時代背景などを丁寧に描いて作ると、これほど新鮮で心を打つ作品になるのかと驚いた。

 舞台は1961年のイギリス・ロンドン郊外。主人公は16歳の少女ジェニー(キャリー・マリガン)だ。おそらく中流階級に属するのだろう。オックスフォード大学への進学を目指し、成績は優秀だがラテン語だけが苦手。楽団でチェロを弾き、フランス文化に憧れている。雨の日、チェロを抱えて路上で困っていると、高級車を運転する男性デイヴィッド(ピーター・サースガード)から声をかけられる。少女はデイヴィッドのユーモアと柔らかい物腰、贅沢な暮らしぶりにすっかり舞い上がってしまい、やがて彼を愛するようになるのだが、待っていたのは苦い結末だった。

 監督のロネ・シェルフィグが女性だからか。作品全体が、少女の気持ちにぴったりと寄り添って、離れない。少女の目から見れば、着飾った男女が酒と音楽に酔うナイトクラブは心躍るあこがれの場所だが、同時にどこか胡散臭く、書物に囲まれた独り暮らしの独身女性教師の世界は知的で立派はあるが、同時に牢獄のようにかび臭い。どちらの世界にも、少女は自分とは異質の「臭い」をかぎ取る。周囲の「臭い」を強調することによって、少女は無臭であり続ける。まだ何者でもない純粋性だけが、切なく浮かび上がってくる。

 ジェニーが抜け出そうとするのは、当時の中流階級の道徳観念、世界観である。そして傷つき、再び自分自身に戻っていく。原作は女性記者の回想録で、「教育」という非常に素っ気ないタイトルだ。甘くきらびやかなウソの世界を経験し、人間として成長して、まじめな人生に戻っていく。そんな道徳的な意味も含まれているのかも知れないが、映画は素っ気ないどころか、少女の気持ちそのままに、とてもロマンチックだ。観客にも青春の頃の、華やいだ気持ちを思い出させてくれる。

 1961年は、「ビートルズ以前」という意味で重要だ。描かれるのは、翌62年にビートルズがレコードデビューし、世界が変わる直前なのである。ビートルズに熱狂した若者のエネルギーは、まだ形にならないまま、何か新しいものを求めて、爆発しそうになっていた。ジェニーが大人の世界に憧れ、無理をしてもそちらへ旅立とうとしたのにも、そんな時代背景があったのだろう。その雰囲気が実によく出ている。

 無論、いつの時代の若者も、爆発しそうな気持ちを抱えているものだが、当時の風俗や風景を正確に再現することも含め、「ビートルズ以前」の雰囲気をきちんと描くことで、時代や国が違う観客が見ても共感出来るのだと思う。

 主演のキャリー・マリガンは撮影当時、22歳だったというが、少女の揺れ動く気持ちを瑞々しく演じていて、16歳の役に全く違和感がない。アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされ、「オードリー・ヘップバーンの再来」と言われるのも納得出来る、本物の「新星」だ。その魅力を目にするだけでも、本作を見る価値はある。デイヴィッド役のサースガードも大人の男をある意味嫌らしく演じていて、とても上手い。

 それにしても、「武士道シックスティーン」と本作を見比べて、同じ16歳でもこれほど違うのか、と改めて思ってしまった。描く方の「目線」の違いもあるが、「武士道~」の少女たちがものすごく子供っぽく見えたのである。それが悪いというわけではない。むしろ早く大人にならなければならない社会は、幸せとは言えないのだろう。

小梶勝男

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