シネマの天使 - 青森 学

消えゆく映画館の哀惜と郷愁を描き切った傑作(点数 100点)


(C)2015 シネマの天使製作委員会

広島県福山市に実際にあったシネフク大黒座が2014年8月に閉館するその数日間を基に描いたセミフィクション。
ストーリーには石田えり、ミッキー・カーチスに加え、新進の俳優を起用して独自の物語を構築しているが、大黒座が閉館したのは本当の話である。
この作品には近年閉館が相次ぐ映画館への愛惜が詰まっている。

大黒座は地元映画ファンの夢のゆりかごであり、夢の集散地であった。
希望や不安を抱えた人は大黒座に寄り、そこで上映される作品からさまざまな人生の教訓や生きるちからを得てまた、人生という旅に戻る。
夢の港で碇を下ろし、しばし映画の世界で心を涵養する。
作品では大黒座の従業員たちが夢の中で仙人と邂逅するが、従業員の質問にいずれも仙人は呵呵大笑して答えを言おうとしない。
そもそも答えは既にそこにあるじゃないか?とでも言いたげである。
”どんな夢も目標も自分の決断次第なんだよ”ということだろうか。

仙人・天使という異界の人との交流。
そもそも映画の世界もまた、人間のideaの世界でもある。
映画館に異界の人が住むというのも否定出来ないリアリティがあって良い。
本編では大黒座にはシネマの天使が住み着いて映画館の暗がりの中、人々の悲喜こもごもを見守るという。

この設定には先例があって人間にとってのエモーショナルな場を天使がつぶさに観察するというのも『ベルリン天使の詩』(1987)でも天使がサーカスの舞姫に恋したように、人間の喜怒哀楽が奔出する場に天使が出没するという伝統的な設定であるように思う。

バーテンダーのアキラ(本郷奏多)はそれをオペラ座の怪人になぞらえていたが、そうであるならば、日本では座敷童のイメージが一般的だが、監督志望のアキラにとって劇場に住む怪人といえば、『オペラ座の怪人』が想起しやすい例えだったのかも知れない。

大黒座の閉館は変わりゆく日本娯楽産業の潮流の一つでしかない。
だが、製作者によって今、日本で消えつつある映画館への郷愁という感情を一般化してくれているので、多くの人にこの映画館の閉館を我が身の事として受け入れられると思う。
これはあなたの街の物語でもあるのだ。
映画の中でも述べられているが、映画館と映画への思いは劇場が閉鎖されても映画が終わってもその後も人々の心の中で生き続いていく。

この作品で大黒座の歴史は結晶化されたといって良い。映画館の歴史は記録に残され、それに関わる人の想いは永遠にその人の心に刻印される。

価値観が多様化する現代において、ひとつの空間で多くの人が同じ想いや志を共有する。そんな稀有な場所が映画館であった。
今一度そのことを噛み締めながら映画館で映画を観たい、そう思う作品である。

青森 学

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