井口監督が仕掛けるホラーの波状攻撃にスマイレージが挑む。(点数 75点)
(C)2012「怪談新耳袋 異形」製作委員会
4つの短編で構成されるオムニバス。
不条理な恐怖と笑いが横溢する「赤い人」は注目。恐怖の中にも笑いを少し偲ばさせるセンスが良い。
恐怖も笑いも深いところでは不条理感がつきまとうところが共通しているような気がした。
元々恐怖というものは不条理なもの、理解出来ないものである。
菅原道真公が朝廷に祟ったのは左遷された恨みであるとされているが、現代的な感覚からすれば、政権の中枢から追い出された代償が天変地異による多くの犠牲者であることはちょっと割に合わない怒りのような気がする。
つまり不条理感があるのだ。
そもそも恐怖の根源にあるのは、当事者が軽い気持ちでやった悪戯に対する過大な報いである。
この作品でもその認識は生かされていて、第一話に登場するヒロインも過ちらしいことをしていないのに、心臓がすくみ上がるような恐怖を味合わされることになる。
バランスの取れない報復感情が恐怖の本質なのだ。
いにしえより人はこういった怪談を聞かされることによって、人間の小ささや自然の恐ろしさ、運命の無慈悲さを身体的に理解していたのである。
この作者もそういった恐怖の不条理さの本質を理解している人だと云えるだろう。
怪談に含められるメッセージとは未知なるものへの謙虚さを欠く人間への警告でもある。
四谷怪談では、お岩さんに呪い殺される田宮伊右衛門は自業自得とはいえ、一族郎党全てが呪われるのはこの不条理な報罰感情に基づくからだ。
少し話しは逸れるが昔の刑罰が度を越していたのもそういった自然の理不尽さを熟知していた為政者の考えに依るものだったのかも知れない。
スマイレージのメンバーが体当たりで役に臨んでいるものの演技が素人っぽかったのは仕方が無い。
恐怖の表情がアップで映し出される時に嬉々として怖がっているのがありありと感じられたが、俳優としてはこれからなのだから、まあ、致し方無いだろう。
(青森 学)