20代の若者が見ても、「老い」と「孤独」のテーマを強く感じるでしょう。(点数 80点)
(C)2011 Pathe Productions Limited , Channel Four Television Corporation and The British Film Institute.
最近、「老い」と「孤独」のテーマにする映画が多いような気がします。
でもそれは、私自身が「老い」と「孤独」について、
いろいろと考えているせいでそのテーマに目が行ってしまうという
可能性も否定できませんが、
映画『マーガレット・サッチャー 』は、20代の若者が見ても、
「老い」と「孤独」のテーマを強く感じるでしょう。
亡き夫の死を受け入れられず、認知症となり、
夫の幻覚と対話する年老いたサッチャー。
彼女が、現役の政治家時代や首相就任時のエピソードを
回想する形式で進んでいきます。
普通は、人生の全盛期、華やかなりし時代の回想は、
ポジティブに描くものですが、
サッチャーの首相就任時代の描写がむごい。
改革路線を強行するサッチャーに失業者は増え、
サッチャーに罵声を浴びせかける。
どん底だったイギリスの経済は、
彼女の改革のおかげて上向きに転じるわけですが、
そこに彼女の「幸せ」は全く見えてきません。
イギリス初の女性首相。
11年という長期間、政権を維持した彼女は、
政治家として尊敬されておかしくないはずですが、
この映画の中で、彼女は庶民からも、
他の政治家からも敬意をもって接するシーンは一つもなく、
彼女が幸せな表情を浮かべるシーンも、ほとんどないのです。
彼女の唯一の救いは、初当選の時から、
ずっと彼女を献身的に支えるデニスの存在。
苦しい時も常に寄り添うデニス。
しかし、この映画の中でデニスとマーガレットが、心を開き、
理解し合うような感動的なシーンがほとんどのないのです。
それは意識的にそう描写しているのでしょうが、
それがまたとても寂しさを際立てます。
「老い」とサッチャーに残されたものは、「夫との記憶」だけだったという。
何のために、そして誰のために、彼女は11年間もの間、
身を粉にして首相として働き続けたのか?
そこを考えると、猛烈に悲しく、また寂しくなってしまう映画です。
追伸 メリル・ストリープのサッチャーの演技が素晴らしい。特に、老後のサッチ
ャーの覇気のない喋り方や歩き方。「老い」の悲しさが、彼女の演技を通して画面
全体に伝わります。アカデミー主演女優賞も納得です。
年老いても、毎回新作で、自己記録を更新するような素晴らしい演技を披露し、観
客を驚かすストリープ。彼女の演技だけが、この映画において、「老い」に対する
唯一の救いに思えます。
(樺沢 紫苑)