日本人のはずなのに全員吹き替え?!(60点)
「週刊ヤングマガジン」に連載中のしげの秀一の同名人気コミックを、『インファナル・アフェア』で知られる香港のスタッフ・キャスト陣で実写映画化した異色作。
豆腐屋を営む父(アンソニー・ウォン)と暮らす主人公の高校生、藤原拓海(ジェイ・チョウ)。彼は長年の豆腐配達と元最強の走り屋である父親のチューンしたハチロク(トヨタ・レビン/トレノAE86型)のおかげで、地元・秋名山の峠道において、郡を抜く実力を身につけていた。とはいえ彼は、巷の走り屋連中と一切関わりがなかったために無名であった。ところがある日、彼はクラスメートの女の子(鈴木杏)とのデートに使う車を借りるため、父親から命令されてやむなく出た峠道レースで、強豪をあっさり破ってしまい、一気にその名を轟かせることになる。
いやはや、ヘンな映画である。日本のコミックを、原作どおり群馬県を舞台に、日本人の登場 キャラクターで作っているのに、出演者はほぼ全員非日本人。当然だれも日本語なんて話せないから、日本語吹き替え版での公開になる。
中国系の顔立ちの役者たちが、いかにも香港のコメディ映画っぽいやりとりをするのを吹き替 えで見ると、正直違和感を感じざるを得ない。しかも、平然とした顔をして、みんな日本人に なりきっているのである。唯一日本語を話す鈴木杏も、当たり前のように彼らに絡む。とても フシギな光景である。
しかし、私はこの作品をあくまで原作通り、設定を変えずに映画化した香港のスタッフはえら いと思う。これを下手に舞台を変更して、他国でロケをして作ったら、それは「イニシャル D」ではなくなってしまう。そして、大事なことは、この映画化は決して失敗作ではないとい こと。見所がたくさんある、香港映画らしい勢いのあるアクションとなっていて、なかなか面白いのだ。
キャストは、微妙に性格などが変更されているが、まあ香港映画だからいいかという感じ。主 役のジェイ・チョウのすかした雰囲気などは、原作とは少々違うがこれはこれでクールでいい。
最大の見所である峠バトルは、結構オシャレに見せてくれる。CGではなく、実際に実車でドリ フトをやっているので(スタントは高橋レーシングが担当)、迫力は段違いだ。パンダトレノ といわれる主人公の白黒パートカラーのハチロクが実際に爆音をあげて走る場面は、これはマ ニアにはたまらない。この映画のほとんどはこの車によるレースシーンなので、おなかいっぱ いになるほど見ることができる。
そのほか、原作通りRX-7やスカイラインGT-R(R32型)など、日本の誇るスポーツカーが多数出演し、秋名山を駆け巡る。決して都会的なセンスではないが、その泥臭さがまたなんとも味 わい深いクルマ映画といえる。
私などは、週末の大黒埠頭周辺に集まるお兄さんたちを眺めているくらいの人間なので、ドラ イビングテクニックについては詳しくわからないが、シフトレバーさばきや足元のめまぐるし い動きを短いカットで何度も映すマニアックな演出は、わかる人には楽しい限りだろう。レー スシーンが多すぎて、しかもそれらはすべて峠道だから、見た目のバリエーションをつけるの に苦労しているのがよくわかるが、なかなかスタッフは頑張った。
まあ、公道で走り回る人たちを主人公にした映画だから教育にはよくないが、カーアクション 映画としてはまあまあで、吹き替えはじつに異色。原作至上主義者にはちょいとまずいが、ク ルマ好きには楽しめる一本だ。あまり期待しすぎず、気楽に行くといいだろう。
(前田有一)