音楽人 - 福本次郎

◆逆光の中に浮かび上がるようなしっとりとした奥行きのある映像があると思えば、カメラを常に動かすことでスピード感を出すなど見せ方に工夫があり、音楽を志す若者の夢と挫折、恋と再生という物語にアクセントを付けている。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 席を立って去ろうとする青年の袖をつまんだり、一緒に作曲しようと無理矢理同じ椅子の端に座らせる。男子に気持ちを伝えようとする女子のさりげなく計算された行動が非常にリアルだ。誘っているけれど相手に選択の余地を残し、自分にも逃げ道を作っておく、そんな微妙な駆け引きがディテール豊かに描かれていて共感を呼ぶ。逆光の中に浮かび上がるようなしっとりとした奥行きのある映像があると思えば、カメラを常に動かすことでスピード感を出して緩急を使い分けるなど見せ方にも工夫があり、音楽を志す若者の夢と挫折、恋と再生というありふれた物語にアクセントを付けている。

 友人とバンドを組む蒼は、幼馴染でギター製作を学ぶ詩音と再会する。ふたりは幼い日の思いを実現するためにオーディションに出場するが、蒼は突然歌えなくなる。一方、詩音の体も病魔に蝕まれていた。

 ミュージシャンを目指す若者、失われた記憶とトラウマ、病気の恋人との遠い約束、まるで三題噺のような要素をちりばめた展開は予想通りだが、この映画のターゲットである中高生には永遠のテーマなのだろう。さらに詩音が自作のギターを蒼に届けようとする過程で起きるトラブルなどのハプニングもお約束通りだ。このあたり、もう少し仕掛けやひねりがあれば新鮮さも生まれたのだが、あくまで期待を裏切らないように進行していく。せめて喪失感だけでも盛り込んでほしかった。

 蒼も詩音も、大学生やフリーターが趣味の延長で音楽をやっているのではなく、蒼は母親が元シンガーソングライター、詩音の父もギター製作者と、親の職業を継ごうと音楽の専門学校で真剣に将来を考えているところが目新しい。親の仕事、特にアーティストや職人は子供にとって一番身近である半面、その苦労やカッコ悪い部分も見ているだけに反発も多いはず。しかも蒼は、「親の七光」とヤジられてステージを投げ出すほどの繊細な神経の持ち主で、これでプロの歌手として人前で歌えるのかと心配になってくる。そんなふたりがさまざまな困難を乗り越え、親と肩を並べるまでに成長する姿がまぶしかった。

福本次郎

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