奇妙な人間関係に目がいきそうだが、ストーリーはオーソックスで良い意味で安定したクライムムービー(点数 83点)
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恋人を共有する男の奇妙な友情と、その2人の男を恋人にする女の奔放な恋愛関係が起こす野蛮な事件。
『ナチュラル・ボーン・キラーズ』もそうだったが、バイオレンスを加味したクライムサスペンスとなるとこの監督は俄然腕が冴えてくるように思われる。
対照的な2人の男が敵対組織に拉致された共通の恋人を救い出すために否応もなく暴力の応酬に引きずり込まれていく過程が非常に生々しい。
とくに麻薬の売買で巨利を得ようとも基本は平和主義者であるベン(アーロン・テイラー・ジョンソン)が恋人を救うためとはいえ、敵対組織の幹部を罠にはめていく様子は見ているだけでも背筋が凍る思いだ。
この映画は勧善懲悪の分かりやすいストーリーではなく、おのれの主義を通すためには自らも汚れ役を買ってでなくてはならないという厳しい現実も描かれている。
オリバー・ストーンがクライムムービーを撮るとなると特徴的なのが、暴力的なのにどこかポップで明るいイメージがある。
今回はカリフォルニアの蒼とメキシコの乾いた風土が強調されており、頻繁に挿入されるカット割と編集作業中のような特殊効果がほど良いテンポを生みだしている。
今作の一番の悪役でもあるベニチオ・デル・トロも女性には受付けにくそうな粘着気味の殺し屋を好演している。
『ユージュアル・サスペクツ』で演じたアバンギャルドなならず者とはうって変わってこういった役も演じ切れるデル・トロに役者の懐の深さを感じずにはいられなかった。
エンディングは水野晴郎の傑作『シベリヤ超特急』のようなスコセッシもびっくりの二段オチではないものの、趣向を凝らした終幕に溜飲を下げるむきも多いだろう。
奇妙な人間関係ばかりに目がいきそうだが、内容は至ってオーソドックスで、変わっている点といえば、ナレーションの役も担っている2人の男の共通の恋人であるオフィーリア(ブレイク・ライブリー)が最後まで存命しているのか安易に予想させない語り口が新鮮だ。
プレスが言及するには原作をかなり改変して映画向きにアレンジしているらしいのだが、そこは換骨奪胎と好意的に見ても良いだろうか。
また、一瞬だけだが、ベンが発展途上国の小学校でXOの操作法を教えているカットがある。
XOとは途上国の貧しい家庭の子供たちにもパソコンを使う機会を提供するプロジェクトが産み出した100ドル程度で購入出来るノートパソコンのことだ。
そういうわずかなカットにも登場人物の人柄や意気込みを説明する描写は特筆すべきで、映画とは一コマもおろそかにしないものだと感心させられた。
(青森 学)