山椒は小粒でもぴりりと辛い。湯長谷の反骨心は福島人の誇りを呼び戻す(点数 86点)
(C)2014「超高速!参勤交代」製作委員会
東北地方の小藩、湯長谷藩は幕府から隠し金山の嫌疑を掛けられて5日間で参勤交代をするよう無理難題を押し付けられるというストーリーなのだが、現代風に言えば脱税を疑われて役所から廃業を迫られた会社が危機を乗り越えるという今でもありそうなストーリーが共感しやすい。
これは湯長谷藩VS江戸幕府という対立軸の向こうに福島VS東京の構図が見えてくる。
時代劇に仮託して実は現代社会が抱えるさまざまな問題を扱っており、見ようによっては社会風刺の効いた作品になっている。
これは言うまでもなく被災地である福島県をバックアップする映画なのである。
江戸幕府という権勢の配下で犠牲を強いられる湯長谷藩は今も東京のインフラを福島県が支えている関係図をマッピングして見せたものである。
現代日本のように東京でのツケを福島が払わされている構造を暗にほのめかしたのがこの時代劇なのである。
しかし、そんな湯長谷藩も暴政に只耐えているだけではない。
一万五千石の小藩でも志ならば百万石の大藩にも勝る。
湯長谷藩は不可能なミッションに挑み起死回生を狙う。
5日間で参勤交代を達成させ幕府の悪漢老中の鼻を明かすストーリーは今回の震災で東京と地方のねじれた関係に疑問を持つ人には快哉を叫びたくなるほどの胸のすく物語になるだろう。
映画の要所要所で湯長谷藩士を鼓舞する科白が登場するのだが、これはそのまま福島県人への応援なのである。
コメディタッチではあるが、羽目を外した笑いではなく、ユーモアの中にも弱きものへの共感と強きものへの反骨心が横溢する気骨のあるストーリーになっている。
腹に一物隠す抜け忍(伊原剛志)が道案内役を買って出ればそれを疑いもせず信じてしまう殿様(佐々木蔵之介)お人好しというか人徳のあるキャラクタ造詣も面白いし最近の映画で取り上げられる名君はこういった包容力のあるリーダーが好まれているのだろうか。
すなわち指導力のあるリーダーとそれを支える有能な部下。
現代の組織論に通じる福島、湯長谷藩のチームワーク。
後半で湯長谷藩の一騎当千の侍が江戸幕府の刺客を潰走させるシーンは判官贔屓な人をスクリーンに釘付けにする。
現代では正義は福島にあるので共感する人は少なくないだろう。
湯長谷藩随一の知恵者である家老の相馬兼嗣(西村雅彦)の危機に直面した際の機転が面白い。
Wikipediaで調べれば分る程度の情報だが、当時としては常識だったように思われる。
詳しくは書かないので相馬兼嗣のナイスな差配は映画をご覧になって確認されたい。
(青森 学)