生きるとは食べること。昭和気分でみられる桜木紫乃原作の映画化です (点数 80点)
(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会
北海道の旭川で裁判官として働く完治(佐藤浩市)のもとに、学生時代の恋人だった冴子(尾野真千子)が覚醒剤所持の罪で被告人として現れますが、彼女には執行猶予付きの判決をくだす完治。その後完治は、冴子が働くスナックに通い逢瀬を重ねます。
不思議なことに完治は二年間の単身赴任を終えて妻子の待つ東京へ戻ることより、冴子と暮らそうと決めるのです(一時の恋が彼のキャリアもすべてなくすかもしれない決断。焼け木杭に火が付いたというとトリフォー監督の『隣の女』を連想しました)。
二人で小さな町でひっそり暮らそうと二人駅のホームに立った時、冴子は「今だけ知らない人になろうよ」と雪の舞うホームの片隅から新たに旅立つはずの列車に飛び込み絶命するのです。
二人のラブストーリーの起点が終点となってしまう衝撃の前半。筆者は男女の微妙な心根の差異と、主人公だと思っていたヒロインが突然映画から姿を消す衝動は、ヒッチコックの『サイコ』を想起しましたが、本作はもちろんホラー映画ではなく、これは序章なのでした。
完治は妻子への想いと彩子へのつぐないから自らに量刑をあたえ、小さな事務所をかまえ国選弁護のみを引き受ける弁護士として静かに…まるで生きる覇気のない中年になっていたある日、弁護を引き受けた敦子(本田翼)が完治の家に訪ねてきて、ある男を捜して欲しいと依頼するのですが、国選弁護以外引き受けない完治は断ります。
家族に見放され風俗で生計をたてたこともある敦子は、断られても完治に家にやってきては、完治のつくる料理に舌づつみ……。いつしか、敦子の存在が完治の自分への罪で閉ざしていた心の歯車を動かすようになるのです。
ざっくりした物語ですが、そこにヤクザの中村獅童、完治の息子の友人役に和田正人、先輩弁護士の泉谷しげるがバイプレイヤーとして物語に膨らみをもたせています。
☆
記者会見の中で、佐藤浩市が共演に本田翼と聞かされ「大丈夫なのか?」と思ったと笑っていました。
本田翼は、今まで青春映画ばかりでしたが、佐藤浩市さんとの共演でこれからの役者としての自信を少しでも持てたと語り、篠田監督もまた絶妙な配役で読み合わせや佐藤浩市との共演で日増しに成長していく本田翼を絶賛していました。
佐藤浩市いわく、日本の古き良き時代のイメージの映画が出来上がったと思っています。派手な映画が沢山ありますが、それはそれ、こういう映画に参加できて良かった。皆さまも是非劇場に足を運んでくだされば嬉しいですと語りました。
本作は第28回 東京国際映画祭の「クロージング」作品に選出されています。
オフャルサイト:http://www.terminal-movie.com/
(中野 豊)