蝉しぐれ - 前田有一

似たような時代劇が多すぎる(40点)

 「たそがれ清兵衛」等で知られる藤沢周平の傑作小説を映画化したもの。黒土三男監督は、2003年に作られたテレビ版で脚本を担当した人。この作品に対しては、とても強い思い入れがあるという。

 ときは江戸時代、東北の小藩。このころ15歳の文四郎は、下級武士の義父と暮らしていた。ところが義父は藩のトラブルに巻き込まれ、切腹を命じられてしまう。その日から罪人の息子の汚名をかぶることになった文四郎だったが、淡い恋心を育んでいた隣家の幼馴染ふくは、変わらず接してくれるのだった。やがてふくは奉公のため町に出て行くが、時が過ぎ、彼らは意外な形で再会を果たす。

 政治的な思考とは無縁に、まっとうな道を生きる市井の人間たちを賛美した人情時代劇だ。誠実でひたむき、かつ生きることに不器用な男、そしてやさしく一途な女。たとえどんな結末を迎えようとも、こういう二人にとって悲劇はない。そんな純愛と、(今は失われつつある)日本的ないさぎよい生き方を美しく描いた作品だ。

 今はせちがらい時代だから、打算などとは無縁の昔ながらの日本人の良さ、精神文化といったものを崇拝するタイプの人が年配の方を中心にたくさんいて、だからこそこういう話が受ける。同じ作者の「たそがれ清兵衛」を筆頭に、似たようなテーマの時代劇や恋愛ものが流行しているのは、つまりはこのジャンルに根強いマーケットが存在するということなのだろう。『蝉しぐれ』は、そのあたりを目ざとく分析した東宝が、それなりのクォリティで出してきた手堅い商品といった印象がどうしてもぬぐえないのだが、まあ好きな人にはどうでもいい話か。

 日本人の美しき心を象徴するかのごとく、映像も綺麗なことこの上ない。変化に富んだ四季の風景、日本家屋のやわらかなたたずまい、見ているとうっとりする。……が、女優にちょいと光を当て過ぎではないか。多くの場面で、肌が白く飛んでしまうほどというのは、いくらなんでもやりすぎ。あざとく感じてしまうし、逆にこの撮り方では女優本来のナチュラルな美しさをスポイルしてしまう。あと、バックの音楽が少々うるさい。もっと無音の場面があってもよい。

 アクションもちょっとだけあるが、役者の身のこなしはややうそっぽい。初めて人を斬るあたりの心理描写はリアルにできているが。

 そんなわけでこの映画、全体的なムードとしては少々俗っぽい感じがする。そんな印象が「手堅い商品」と感じてしまう理由なわけだ。少なくとも、映画作品としては特段優れたものではないだろう。131分という長大な上映時間も、順順にストーリーを追っていったらこの時間になりました、という典型みたいなもので、つめの甘さを感じさせる。大衆向けの時代劇商品なのであれば、もっと話をコンパクトにして起承転結をつけたほうがよかったのではないか?

前田有一

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