英国王のスピーチ - 福本次郎

リーダーに必要な資質は、言葉が持つ魔力を自分の魅力にする能力であることをこの作品は見事に証明していた。 (点数 80点)

数千の目に射竦められて萎縮し、つい口籠る。
緊張のあまり頭の中が真っ白になる場面は胃を締め付けるような緊迫感で主人公の気持ちを再現する。
期待が不安に変わり最後には失望をあらわにする、聴衆の表情が見えているだけにますます焦りが募り、とうとう退席してしまう。
映画はそんな彼が言語療法士の指導のもと吃音を矯正し、苦難の時を乗り越えるシンボルになるまでを描く。
こういう事実が活字になり映像化される、あらためて“開かれた英王室”を実感する。

英王子ケント公は演説台に立つが大失態を演じ、ライオネルの療法を試して徐々に吃音を克服していく。
その後、王位を継承しジョージ6世となるが、独ソの台頭で威厳ある王を望む声が人々から高まる。

ライオネルはケント公をバーティと呼びあくまで人として対等だと強調、口の筋肉をふるわせ、床に転がり、4文字ワードを叫ばせて、バーティをリラックスさせる。
彼らの関係は国王に即位しても変わらない。
国王といってもひとりの人間、いや国王だからこそ責任の重さから来るプレッシャーは余人には計り知れない。
その苦悩をコリン・ファースはかすかに怯えの色を帯びた目と筋肉をひきつらせた口元で見事に表現していた。

明瞭な発音、明確なビジョン、何よりこの人についていけば大丈夫と思わせる声のトーン。
リーダーに必要な資質は、言葉が持つ魔力を自分の魅力にする能力であることをこの作品は見事に証明していた。

福本次郎

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