◆物語で印象的なのは、故意に真実を隠したりねじまげたりした人物の作為より、目の前の情報に踊らされ、確かめもせず一人の人間を犯人扱いしてしまう集団心理の恐ろしさ(60点)
ビートルズファンにはたまらないミステリーだが、ビートルズの楽曲のメロディや歌詞はさほど重要なアイテムではないのが意外だ。ビートルズ・バー「リボルバー」のオープニング・パーティの最中に、稀少版オリジナルLPレコードが紛失する事件が起こる。同じレコードを偶然持っていた柚木が犯人とされたのだが、その後柚木は死亡する。1年後、常連客が集まるリボルバーに、柚木の友人で、探偵の三影が現われ、事件の真相を解明しようと提案するが…。
複数の人間が閉ざされた空間で繰り広げる会話劇は、非常に演劇的だが、映画では事の真相を解き明かすスタイルとして抜群の効果をあげる。舞台があちこちに飛ばないため観客は集中力を保ち、効果的に挿入される回想シーンでほどよく気分転換することができるのだ。事件の犯人を探すのではなく、犯人とされた人物が無実であることを証明する展開は、シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」に似ているが、無実だけでなく新事実をどう解釈するかを問う展開は、むしろニキータ・ミハルコフ監督がリメイクした「12人の怒れる男」に近い。1年前の出来事の細部を紐解き、時に仮説をたてながら矛盾点を発見する過程で浮び上がるのは、店に集まった人間の置かれた立場や人間性だ。意外な秘密や嘘などから暴かれていく謎解きは映画をみてもらうとして、物語で印象的なのは、故意に真実を隠したりねじまげたりした人物の作為より、目の前の情報に踊らされ、確かめもせず一人の人間を犯人扱いしてしまう集団心理の恐ろしさだ。もっとも、柚木の汚名をそそぎにきた上、“何もしないこと”も立派な罪だとする割には、探偵がつける顛末は甘い。だが、それでもそこにいる人物を性善説でとらえなおしていくスタンスは気分がいいものだった。ビートルズのブッチャー・カバーにまつわるうんちくなども興味深いもので、なかなか楽しめる1本といえようか。
(渡まち子)