精神 - 前田有一

精神病をテーマにしたドキュメンタリー(60点)

精神

© 2008 Laboratory X, Inc.

 いきなり、超ブルーな女性のカウンセリングの場面から始まる。見た瞬間、こりゃヤバイ、放っておくと死ぬぞと思わせるような顔つきをしている。聞くと、昨日オーバードーズ(致死量を超えるような薬の大量摂取)したばかりという。なるほど、これが実際死の淵まで行ってきたばかりの顔か、と観客は納得する。

 『精神』は、海外の映画祭で高い評価を受けた、想田和弘監督によるドキュメンタリー。鬱病や統合失調症といった、現代人の多くが罹患する心の病、その患者や医療従事者に迫る、タブーだらけの内容である。

 冒頭の女性は、自殺未遂の原因を延々と語り続けるが、それを聞いていると観客はきっとこう思う。「こいつは間違いなく、何度も同じ事を繰り返しているはずだ」と。それは、救いようの無い絶望感をわれわれにもたらす。のっけからキツい。

 次々と、様々な年齢、性別の患者が出てきて自分語りをはじめるが、共通しているのは皆、おそらく薬剤の副作用もあってかなり太っているということ。そしてなにより、自分に対して雄弁ということ。内面にエネルギーのすべてが向いているから、とにかくよく語る。もう、確実に病気である。見ただけでそうわかる。

 もっとも衝撃的な話をする女性がいる。結婚も出産もしたという人で、その詳細はぜひ劇場で見てほしいが、この人を見ていると、もしかすると知的な障がいもあるのではないかと心配になる。

 いずれにせよ、彼女に福祉の手はまったく行き届いていない。受ける側からは長年言われ続けている日本の政策の失敗だが、それ以外の人は気づいてもいない。海外に比べればきっとマシだろう、程度の認識だろう。じつにやりきれない。こうした映画が、多少なりとも人々の目を問題に向ける契機になればいいのだが。

 想田監督は、ある候補者のドブ板選挙活動を追いかけた『選挙』(06年)で見せたのと同じく、ナレーションや解説を省いたシンプルな演出で本作を仕上げた。本人は「観察映画」と呼んでいるが、なるほど確かにそんな印象だ。画面には、わかりやすいテレビのドキュメンタリー番組などとは異質の、生々しい雰囲気が充満する。

 個人的には、状況を眺めるだけよりも、世の中を変えようと行動する人の姿を見ているほうが好みだが、こうした作品の意義も否定はしない。決して見ていて楽しいものではないが、現状認識の一助として、貴重な存在であることは確かだろう。やがて最後にエンドロールをじっくり見ていると、きっと大きなショックを受ける事になろう。

前田有一

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