◆インタビュー映像を取り入れ、立ち退き作業を手持ちカメラで捉えた臨場感溢れるドキュメンタリー・タッチの作風でリアリズムを追求(90点)
南アフリカの新鋭ニール・ブロムカンプが監督・脚本を手懸け、ピーター・ジャクソンが製作を務めた異色のSFアクション・ドラマ。
南アフリカ首都ヨハネスブルクの上空に謎の巨大宇宙船が出現する。この宇宙船は故障が原因でずっと留まった状態になる。中に潜んでいるエイリアンが地上に上陸し、人々は彼らを難民として受け入れることとなる。28年後、エイリアンたちの仮設住宅密集地“第9地区”はスラム化し、これによって軍事企業でもある国家機関MNUはエイリアンたちを新たな難民キャンプ“第10地区”へ強制移住させることを決定し、エイリアン対策課職員ヴィカス(シャルト・コプリー)を現場責任者として、立ち退き作業を開始する。だが、ヴィカスは作業中に謎の液体を顔に浴びてしまったことからウイルスに感染してしまい……。
インタビュー映像を取り入れ、立ち退き作業を手持ちカメラで捉えた臨場感溢れるドキュメンタリー・タッチの作風でリアリズムを追求しており、これが大きな魅力の一つでもある。なおかつ、独創的なSF作品として仕上がったのである。
また、エイリアンの造形もインパクトが大きい。ルックスは甲殻類に近いことから人々からは“エビ”という蔑称で呼ばれる。そんな彼らの描写からはユーモアすら感じられ、中でも嘔吐や放尿する様子には笑わせてくれる。
序盤では人々とエイリアンの対立が描かれ、これがSFアクションとしての面白さを感じさせてくれる。主人公ヴィカスがウイルスに感染してからの中盤以降は、ヴィカスの活躍を中心に描き、彼を捕らえようとするMNU側との対決をド迫力のアクション演出で魅せつける。とにかく後半のアクション描写は見応え抜群で醍醐味を存分に感じさせてくれる。
本作は娯楽作品である一方、社会性も持ち合わせている。エイリアンを被差別民族として描き、南アフリカの不衛生かつ黒人ギャング団が巣食う治安の悪い劣悪な環境に住まわせる。当然、実際に差別されていた黒人以上に酷い身分として扱われている。これは、第二のアパルトヘイトと捉えることができ、かつてのアフリカ社会の病的な面を痛烈に批判しているのである。
ちなみに本作の予算は3,000万ドルと比較的安く、その上にキャストには有名スターを起用していない。それでも面白い作品に仕上がっているのは、見せ場作り等のアイデアと充実した内容によるものだと言い切っても良いだろう。
(佐々木貴之)