人も自然も丁寧に撮られた映像はみずみずしく、悪意を持った人間が登場しないストーリーも口当たりは良い。(点数 40点)
(C)2011 「神様のカルテ」製作委員会 (C)2009 夏川草介/小学館文庫
表情すら失うほど憔悴しているのに、順番を待つ患者たちの治療を続
けなければならない。救命救急、それは医師・看護師の献身的な労働
によって支えられている現実を描くプロローグは緊張感よりむしろ悲
壮感を漂わせている。物語はそんな病院で働く青年医師が、研究の道
に進むべきか目の前の一人の患者を安らかに見送るべきかの葛藤を通
じ、人の命を預かるとはどういうことかと問うていく。
【ネタバレ注意】
町の総合病院の勤務医・一止は多忙な日々を送っていたが、ある日、
大学の医局に研修に呼ばれ最新医療を学ぶ機会を得る。しばらくして、
安曇という末期ガン患者が一止を頼って勤務先に転院してくる。
「案ずるな」「~やもしれぬ」「面目ない」etc. 漱石を愛読してい
るせいか、一止が住む旅館を改装した共同住宅では明治時代の小説の
ような言葉が飛び交う。画家、写真家、学士、そこは成功を夢みる芸
術家の卵たちが暮らすコミュニティ。お互い虚勢を張り傷をなめあう
馴れ合いの場でもあるのだが、彼らの青臭さは、よき医者とは何かを
常に自問している一止にとっては唯一心を開いてくれる存在でもある。
そのあたり虚構と分かっていてもその優しさにつつまれたくなる。
人も自然も丁寧に撮られた映像はみずみずしく、悪意を持った人間が
登場しないストーリーも口当たりは良い。だが、一止の自己満足とも
思える安曇へののめりこみと、テンポがのろく感情を抑えた山場の少
ないエピソードの数々は退屈を禁じ得なかった。
(福本次郎)