第二次大戦後、ブラジル日系人社会で日本の敗戦を信じなかった人々の悲劇を、ブラジル人監督が日本人キャストで描いた力作(点数 78点)。
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9年前、ブラジル・サンパウロの日本人街に行ったことがある。
商店街のような通りだが、日系ブラジル人が数多く住んでいるので、そう呼ばれていた。
そこの商店には、カップヌードルが2種類、並んで置いてあった。
ちょっと見た目は全く同じだが、一つは日本からの輸入品で、もう一つは、現地で生産されたものだった。
よく見ると、原材料を表示する部分は、日本語と、ブラジルの言語であるポルトガル語で違っていた。味は変わらないと聞いた。値段は輸入品の方が、数倍高かった。
それでも、現地に住む日系の人たちは、日本の味がするといって、輸入品の方を買って行くのだという。店主からその話を聞いたとき、ひどく心を打たれたのを覚えている。
日系ブラジル人たちの、日本への強い思いを感じたからだ。
日本人街は当時も韓国系の方が数が多くなっていたが、その後、混血が進み、さらに韓国系、中国系が増えて、東洋人街と名前が変わってしまった。
「勝ち組」「負け組」の話を聞いたのは、その時が初めてだった。
第二次世界大戦後、ブラジル政府によって情報が遮断されていたため、日本の敗戦を知らされず、勝利を信じ続けた人々がいた。
それが「勝ち組」。
日本の敗戦を知っていた「負け組」との間で、争いになった。
この映画は、「勝ち組」による「負け組」襲撃事件を描いている。
国策により、ブラジルへ移民としてやってきた日本人たちは、第二次世界大戦がはじまると、ブラジル政府により日本語も、日本人同士の集会も禁止され、情報から全く遮断された。
日本人社会には、日本の敗戦を知らされず、勝利を信じ続ける「勝ち組」がいた。
写真館を経営するタカハシ(伊原剛志)もその一人だった。
ある日、元陸軍大佐(奥田瑛二)から、日本の勝利を信じない人々を「国賊」として殺害するよう、求められる。
妻(常盤貴子)と愛し合うタカハシは、心に迷いを抱えながらも、同胞を殺害してしまう。
サンパウロで会った多くの日系人たちから、「勝ち組」と「負け組」との争いについて聞いた。
9年前の当時でも、日本の勝利を信じ続ける「勝ち組」は存在していると言っていた。
彼らはどうしても敗戦が信じられず、70年代にも、80年代にも日本を訪ね、その繁栄ぶりを見て、「やっぱり勝っていた」と意を強くしてブラジルに戻ったという。
何という悲劇だろう。彼らをバカだとは思う。
思うけれども、同じ境遇であれば、自分も、そして誰でもそうなってしまったかも知れない、とも思う。
今の日本では余り知られていないこの悲劇を、ブラジル人のヴィセンテ・アモリン監督が描いた。
外国人監督が日本人社会を描くと、どうしても所々に違和感が生じてしまうが、この映画に関しては、ほとんど感じられなかった。
画面の一部だけに焦点が合っているような映像は、最初からノスタルジックで、登場人物たちの感情にあまりに寄りすぎている。
だが、寄りすぎでなければ、このテーマは描けなかっただろう。
「勝ち組」の悲劇はバカバカしいように思えて、今の日本社会のどこにでも転がっている。
それこそ、いじめを隠そうとする学校にも、権力に追従する会社にも、政治にも。
ある組織や、社会に所属していると、周りが見えなくなってしまい、簡単なことも分からなくなってしまいがちだ。そう思わせるだけの説得力が、この作品にはある。
ブラジル日系人社会の「勝ち組」の心情に、しっかりと寄り添っているからだろう。
伊原をはじめ、奥田や常盤ら役者たちの演技も、あの当時の移民たちとして違和感がなく、素晴らしかった。
多くの人に見てもらいたい力作だ。
(小梶勝男)