ヤクザ・ヴァンパイアを描いた三池崇史監督のシュールなアクション。面白そうな要素は数多いが、面白くならない珍品(点数 50点)
(C)2015「極道大戦争」製作委員会
三池崇史監督は大作よりも、Vシネマや中小規模の作品で暴走した時の方が、圧倒的に面白い。「極道戦国史 不動」「オーディション」「DEAD OR ALIVE」シリーズ、「漂流街」「殺し屋1」「極道恐怖大劇場 牛頭 GOZU」「IZO」「龍が如く 劇場版」「ヤッターマン」「愛と誠」「神さまの言うとおり」などは、個人的に大好きな作品だ。
反対にがっかりしたのは、「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」「クローズZERO」「十三人の刺客」「土竜の唄 潜入捜査官REIJI」など。
ストーリーのまとまりをあまり気にしない、というよりむしろ、ほとんど放棄して、場面の迫力で乗り切ってしまう力業は、うまくいけばとんでもなく魅力的な映画らしい映画となるが、ひとつ間違うと意味不明の珍作となってしまう。
残念ながら、「極道大戦争」は後者の方だった。
ヤクザの組長・神浦(リリー・フランキー)は実は吸血鬼だった。
しかも、かまれた者はカタギがヤクザになってしまう、ヤクザ・ヴァンパイアだったのだ。
神浦にとっては、カタギの血の方が美味しいのだが、カタギには手を出さないと誓っているので、我慢してまずいヤクザの血を飲んでいる。
ある日、神浦は殺されてしまうが、最期の瞬間、組員の亜喜良(市原隼人)をかんで、ヤクザ・ヴァンパイアの後継者とする。
ヴァンパイアになった亜喜良は我慢しきれずカタギをかんでしまう。
子供も、夫婦も、女子高生も看護師も警官も、次々とカタギがヤクザ(かつ吸血鬼)になってしまう。
やがて神浦を暗殺したのが組の若頭(高島礼子)の策略であることが分かり、亜喜良と若頭たちとの戦いが始まる。
面白そうな要素はいくらでもある。
吸血鬼でヤクザ映画。女の若頭や、カッパ。
最強の刺客がカエルの着ぐるみ。
「ザ・レイド」でシラットの超絶アクションを見せたヤヤン・ルヒアンまで登場し、実ににぎやかにバカ騒ぎを繰り広げる。
どう考えても面白くなりそうなのに、全くそうならないので困ってしまった。
例えば、せっかくインドネシアから呼んだルヒアンのアクションが、全く生かされていないのだ。
ルヒアン演じる殺し屋が亜喜良と素手で戦う場面がある。
市原も見事に体を作っており、わくわくしながら見ていたのだが、ただ順番に殴り合うだけ。
笑いのつもりなのかも知れないが、せっかくの見せ場が台無しだ。
ルヒアンを呼んでアクションをきちんと見せないでどうする、と思う。
カエルの着ぐるみの恐ろしさも、もっと強烈なスプラッターで見せてほしかった。
今回はシュールな笑いやかっこいいカットはあっても、いつもの三池監督作品のようなどす黒い悪意や、過剰な描写がない。
何をしたいのか分からないし、暴走しているようで、暴走していない。
だけはVシネマ時代に戻っているように見えるが、あのころの作品にあった何かが、決定的に欠けているような気がする。
(小梶勝男)