◆ディティールは低予算作品にありがちな安っぽさをまったく感じさせないほど完璧な出来栄え(70点)
名ロック歌手デヴィッド・ボウイの長男ダンカン・ジョーンズの映画監督デビュー作品であり、予算は500万ドル以下という超低予算のSFサスペンス・スリラー。
宇宙飛行士サム(サム・ロックウェル)は地球で必要なエネルギー源“ヘリウム3”を採掘するべく三年契約で月に単独で滞在し、働いている。話し相手は人工知能搭載ロボットのガーディ(声:ケヴィン・スペイシー)のみで、地球との直接通信は許可されていないという状況。こんな生活もあと二週間待てば終了と思っていたとき、自身と同じルックスの者に遭遇するが……。
場所は月面とその基地内と限定されており、登場人物もサム・ロックウェル扮するサムが殆ど出ずっぱりという具合に低予算らしさ全開であるが、ディティールは低予算作品にありがちな安っぽさをまったく感じさせないほど完璧な出来栄えであり、これだけでもポイントはかなり高いと言っても良い。
SF作品であるが、低予算ということもあってよくありがちなアクションシーンやCG、VFXを駆使した娯楽性を高めるような演出はなされず、あくまでも地味な作風もサスペンス・スリラーらしさを醸し出し、サムの悲哀感溢れる男をしっかりと演出することに成功している。
とにかくサムのそっくりさんが出てきてからがお楽しみであり、「この男は一体何者なのか?」、「果たしてどうなるのか?」と観る者をグイグイと引き込ませる。
本作は実に古典的SF作品に近く、SF作品の原点に戻ったかのような感じなのである。
(佐々木貴之)