◆書道パフォーマンスそのものがとても魅力的で、書道という古風な芸術に、現代的な空気を送り込む(75点)
“書道パフォーマンス”が町興しに一役買ったという痛快な実話は、高校生が書道を通して自分たちが住む町への愛情を再確認し、成長していくプロセスがさわやかだ。愛媛県四国中央市は紙の生産高日本一を誇る町だが、不況のため商店街は閑散として元気がない。そんなある日、四国中央高校の書道部の部長・里子と部員たちが見たのは、音楽に合わせて巨大な半紙に文字を書く臨時顧問・池澤の姿だった。その様子に衝撃を受けた部員たちは、町を活気付けようと「書道パフォーマンス甲子園」を開催しようと思いつく…。
書道の静のイメージを覆すダイナミックな書道パフォーマンスは、縦横10メートルはあろうかという巨大な紙に、書だけでなく絵やメッセージなどを、複数の人間で書き込んでいく集団アートパフォーマンス。単に字や絵が上手いというだけでなく、みんなで力を合わせて仕上げる作品はチームワークが重要な要素だ。この書道パフォーマンスそのものがとても魅力的で、書道という古風な芸術に、現代的な空気を送り込む。紙の質は最高だが、肝心の紙が売れずに工房を閉めねばならない職人の無念や、量販店のあおりをうけて閉店し他県へ引っ越していく個人商店の店主の諦念、さらには池澤の秘めた挫折感まで、説得力のあるエピソードを丁寧に積み重ねていき、地方の実態をリアル、かつ愛情を込めて浮び上がらせる。ヒロインの里子は、書道の才能はあるが、書の師である父の支配下にあるような自分を解放できずスランプ状態。頑なな態度で周囲と衝突するのだが、自分が本当に楽しめる書を、仲間との書道パフォーマンスの中に見つけていく。自分が何を求めているかを手探りで求め、自我を確立する様子は、セオリー通りだが、その素直な描写は好感度が高いものだ。
クライマックス、四国中央高校の呼びかけに賛同した他校と競い合う大会は、皆、個性的な衣装と音楽でパフォーマンスを披露し、その楽しさと素晴らしさに見入ってしまう。里子たちの描く書は、いったいどんな形をとるのかは映画を見てぜひ確かめてほしい。町のどこからでも見える工場の煙突は、おそらく環境のためには問題ありの存在。だが同時にそれは雇用を生む現実のランドマークでもある。こんな清濁併せ持った世界を彼女たちが知る日も近いだろう。懸命に頑張る10代の少女たちが、たまらなくまぶしかった。
(渡まち子)