春との旅 - 渡まち子

◆自分の過去に向き合い、後悔してもそれを口に出して言えない男の旅は、観客に生きる難しさを教える(60点)

 海外の映画祭でも評価が高い小林政広監督の新作は、祖父と孫が一緒に旅をするロードムービーだ。北海道に住む、元漁師の忠男は、失業したため東京に働きに出ると言う18歳の孫娘・春と共に親族を訪ねる旅に出る。目的は忠男の生活の面倒を見てもらうこと。二人は今まで疎遠だった親類縁者を訪ねるが、そこには厳しい現実があった。頑固者な上に足が不自由なため春に頼って生きてきた忠男と、父母のいない春は、今まで避けてきた家族という存在に否応なく向き合うことになる…。

 名優・仲代達矢は良くも悪くも演技が大仰で存在感がありすぎるのが難点だが、この脚本に惚れこんだというだけあっていつも以上に気合が入っている。権力者の役柄が似合う仲代だが、本作は貧しい上に、肉体的にも誰かの世話を必要とするハンデを負った役柄だ。社会の底辺で生きる男をリアルに演じ、戻る場所がない人間の切なさを漂わせて、さすがに上手い。兄夫婦や弟夫婦、姉などは、忠男の面倒をみたくてもそうできない事情があり、また忠男のためにあえて突き放す思いもあって、単なる薄情ではないところが考えさせられる。家族、失業、高齢化社会。物語からはさまざまな問題が浮び上がるが、祖父と孫という大きな年齢差の二人がコンビを組むことで、どこかトボけた面白味も。自分の過去に向き合い、後悔してもそれを口に出して言えない男の旅は、観客に生きる難しさを教えるものだ。脇役まで実力派俳優が固めていて、決して華やかではないこの作品を陰からサポートしている。特に、忠男の姉でしっかり者の旅館の女将を演じる、淡島千景がいい。キリリとした厳しさの中にある優しさは、物語を引き締めている。タイトルにある春は孫娘の名前だが、希望の季節の春とも繋がっていく。切実でつらい人生だが、かならず光はある。寄り添って生きる祖父と孫に、確かな絆を感じたように。このラストは悲しみを帯びたハッピーエンドだと思いたい。

渡まち子

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