◆制作者が伝えようとするメッセージに迷いがない(75点)
入場者数の低迷により、廃園に追い込まれかけていた北海道の旭山動物園。状況を打開すべく滝沢園長(西田敏行)と飼育係たちは、動物本来の(野生に近い)生き生きとした姿をお客に見せる"行動展示"を発案。滝沢園長はここ一番でリーダーシップを発揮するが……。
奇跡の再建を果たした旭山動物園の実話をベースにした作品だ。特筆すべきは、再建までのプロセスをなぞるだけでなく、さまざまな問題意識を盛り込みつつ、濃厚な人間ドラマとして煮込んだ点だ。動物愛護団体とのやりとりを通じて動物園の存在意義を考えさせ、動物の死を通じて動物飼育のジレンマを浮かび上がらせ、飼育係同士の衝突を通じて一筋縄にはいかない"人間という動物"の実態に迫る。
随所に挟まれる動物たちの――ときに愛らしく、ときにほほ笑ましく、ときにどう猛な――姿は、どちらかというと挿絵のようなものだ。主役はあくまでも人間。この映画は人間ドラマであり、動物たちは名脇役として存在感を光らす。
若手飼育係とベテラン飼育係が持論をぶつけ合ったり、思い通りにいかない「繁殖」に飼育係が苦悩したり、園一丸となって再建案を実行へ移したり……と、ベタながらも重みのある展開も好感度大。動物と動物、あるいは人間と動物の絆の深さを描いたいくつかのシーンでは、さすがに胸がジンと熱くなる。
大げさで、むさ苦しく、はなはだ演出過剰。ある若手飼育係と彼の母にまつわるエピソードに至っては、さすがにやり過ぎの観が否めない。が、それでもなおこの映画に魅力を感じるのは、制作者が伝えようとするメッセージに迷いがないからだ。
ともするとチープなサクセスストーリーになりがちなドラマを、悲喜こもごもな人情劇に仕立て上げた娯楽作「旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ」は、個々のキャラクターの立ちっぷりも絶にして妙。ひとクセもふたクセもある飼育係たちが、至近距離でツバを飛ばしながらがなり合う姿は、まさしく"行動展示"の人間版。まるでサルかゴリラのケンカを見せられているかのようだ。
動物が見たいなら旭山動物園へ。人間が見たいなら「旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ」へ。
(山口拓朗)