推理作家ポー 最期の5日間 - 青森 学

エドガー・アラン・ポーの死の謎に大胆な解釈を盛り込んだ意欲作。だが、作家への愛が強過ぎて観る者にそれなりの知識を要請する映画といえそう。(点数 75点)


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Everything you can imagine is real.(あなたが想像することは全て現実になる)

ピカソはそう言い残したのだそうだ。ポーの書いた猟奇小説が模倣犯の手によって現実化していくくだりは何もポーひとりの責任だとは言い切れない。人間は想像することを止められない動物だ。物理学者はアインシュタインの仮説から原爆を建造した。
この映画の中に登場するポーの小説を実現化する殺人鬼はそんな科学者の宿業の双生児なのである。

告解するが私はエドガー・アラン・ポーについては門外漢である。
推理小説の原典というべき『モルグ街の殺人』ですら読んだことがない。
この作品に登場するオーギュスト・デュパンは世界最初の推理探偵であること以外は寡聞にして知らない。

自己利益を国益に読み替えるような安易なナショナリズムではなくて、もっとアメリカ人であることの誇りを呼び覚ますような原初的な愛国心(郷土愛に近い)に深くコミットしているのがポーなのだと思う。
そこを勘定に入れて観ないと、アメリカ人でいることを誇らしく思うようなこの映画の真髄は味わえないのかもしれない。
日本人でいえば、江戸川乱歩が小説世界から現実に復帰して難事件を快刀乱麻で解決していくメタ小説があれば(あるのだろうけれど)、ファンは狂喜乱舞するのは容易に想像出来るのと同じことである。

メタ小説が オーソドックスな小説と一線を画するのは虚構である了解を一旦留保する作用があるからだ。
今作も自著の熱烈な崇拝者から突きつけられる挑戦状がポーファンには興味を持たれるのだろうけれど、この構図は『セブン』で聖書のエピソードに倣って殺人を実行したシリアルキラーと状況が似ている。
新規性は感じられないのだけれど、ポーが殺人事件に臨むというプロットがアメリカ人の情緒に訴えかけているのだ。
只、前述したように余程のポー愛好者でもない限り日本人にはピンと来ない。しかも映画はポーの小説を耽読していないと解き明かす謎にも感動が薄まってしまう。なんとなくこれは自分宛に向けられたメッセージではないな、と思ってしまうのだ。この映画はポー作品愛好家に向けられたボーナストラックのような映画だからだ。

映画ではポーが著した数々の小説の内容を模倣した連続殺人事件が起こるのだけれど、トリックは既に小説の中で明かされている点が、他のサスペンスとは一風変わっている。事件の謎の答えは既にポーの頭脳に隠されているのだ。
犯行のメッセージを読み解くにはポーの著作に知悉していなければならない。
ポーの愛読者であれば記憶のデータベースから引用し検討する楽しみ方が出来るのだろうけれど、読んでいないとこの楽しみが味わえない。実にもったいない。

ポーの死因の様々な解釈が結構トリヴィアルなことまで踏み込んでおり、国民作家であるポーのことならアメリカ人は興味を持つのだろうけれど、海を挟んだ外国人にはポー研究家でもない限りそこまで強い関心を持つことは出来ない。
おそらくこの映画のマーケットはアメリカ国内を対象にしていて海外のことはあまり念頭に置いていないのではないのだろうか。
ディズニーが配給するわりにはあまり普遍的なテーマの存在が感じられない作品であった。
時代が変わっても愛、苦悩などの普遍的な問いは変わらず存在しているのだが、いかんせんエドガー・アラン・ポーの死にまつわるミステリーを描いた今作はそこが売りであると同時にアキレス腱になっている。
只、新聞紙上で論敵と論争を挑むエピソードが挿入されており、それが現在ではtwitterのようなソーシャルメディアに置き換わっているだけで本質は何も変わっていないことをさらりと伝えるよう脚本に腐心している点は評価出来る。

映画としてはゴシックなデザイン等、時代物の風格が感じられて良いのだけれど、この映画はエドガー・アラン・ポーをリスペクトする人に向けられた玄人好みの映画といえそうなことである。
挑戦状を突きつけられているのはなにもポーだけでは無いのだ。

青森 学

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