タイトルの意味が明らかになるとき、観客は大きなショックを受ける(65点)
こちらを不安にさせる不協和な音楽に、のっけから異様な緊迫感。何かとんでもない事がおきると予感させるドラマだ。最大の特徴は、誰もが予想だにせぬ凄まじい結末で、主演の小池栄子にとってはこの場面、間違いなく過去最高の演技と評される事になるはずだ。
OL・京子(小池栄子)は誰にも心許すことなく、職場にも馴染まず孤独な日々を送っている。そんな彼女が、テレビのニュースで一瞬だけ見た無差別殺人犯(豊川悦司)の笑顔に心奪われてしまう。早速公判の傍聴に出かけ、彼の弁護士・長谷川(仲村トオル)に声をかけ、差し入れの方法を教えてもらう。手紙を通じて徐々に殺人犯との関係にのめりこむ京子を、やがて長谷川も本気で心配するようになる。
何の接点もないイカれた殺人犯に恋をする女。あらゆる共感を拒絶するかのごとき設定だ。
しかし見終わった後、ヒロインの行動に理解をしめす自分を発見し、観客の多くは愕然とするだろう。異常な物語なのに、いやだからこそ人々の興味をひきつけてやまない、優れた人間ドラマといえる。
全体に蔓延する狂気ムードもたまらない。万田邦敏監督は、健全を絵に描いたような前作『ありがとう』から一変、異様な世界を作り上げた。
ただ、登場人物が"変な人、全員集合"になっているため、観客はおのずと距離を置いて見るほか無く、肝心のビックリ結末の衝撃が薄れてしまっている。
観客にとってほぼ唯一の感情移入先となるであろう長谷川について、せめてもう少し言及があれば、この問題は解決出来たろう。現状では、トンデモヒロインの京子に惚れてしまう、こちらも変な人になってしまっている。彼が京子に惹かれる理由について、自身の家庭環境でもコンプレックスでも何でもいいが、何か説得力となるエピソードがあればなお良かった。
大抵の人は、凶悪犯の味方をする弁護士(=いわゆる人権派などと呼ばれる人々)に対して、主に感情論から厳しい目を向けがちだ。なにしろ殺人事件容疑者の弁護人を懲戒請求せよなどと、テレビカメラの前で(自分がするのでなく)大衆に呼びかけるような人物が知事になってしまう世の中だ。もう少々突っ込んだ人物造形をしても損はあるまい。
あとひとつ。その仲村トオルと小池栄子が、やたらと雄弁なのはいただけない。いかにも脚本の長文台詞を読んでます、という感じで、二人ともそこそこ演技力があるからなんとか破綻せずにすんでいるが、かなりの違和感がある。
こうした幾つかの気になる点はあるものの、平均をはるかに上回る良質かつパンチのある映画であり、十分にオススメできる。鬼気迫る表情の小池栄子、なんだか夢に出そうだ。
(前田有一)