勇気や行動力より幸運と諦めない意思が運命を左右する、そんな戦場の論理がリアルだった。(点数 50点)
(C) 2010, GOLDEN EAGLE.
肖像をかたどったケーキに顔を押し付け窒息死させたい。スターリン
の時代のソ連人ならば誰もが一度は夢に見たビジョンなのだろう。い
つ政治犯にでっち上げられるかわからない恐怖におびえながら暮らし、
収容所では重労働が待っている。確かにドイツから祖国を守った指導
者ではあるが、それは自国民の安全など顧みない焦土戦と冬将軍で勝
ちを拾ったもの。映画は、第二次大戦の東部戦線を生き抜いたソ連人
父娘の視線で再現する。そこに描かれているのは独ソ戦の悲惨な現実
というより、あまりにもくだらない原因で人が死んでいく滑稽さ。そ
の根底にあるのは圧政の上に帝国を築いた独裁者への憎しみだ。
1941年、労働キャンプに収容されていたコトフは独軍の空襲にまぎれ
て脱走する。一方、コトフの娘・ナージャはコトフを探すために従軍
看護婦に志願、病院船に乗船中に独軍機に撃沈される。
大勢の民間人がいるにもかかわらず平気で橋を爆破したり敵味方の区
別がつかない士官がいるソ連軍、ふざけ半分に病院船を攻撃したりソ
連の村人を焼き殺すドイツ軍。それらのシーンで流される大量の血と
失われる数多の命は、戦争の狂気を象徴している。
その中でコトフもナージャも懸命に生き残ろうとする。コトフは「存
在を知られないように」、ナージャは「父探しという神に与えられた
使命」に燃えて。勇気や行動力より幸運と諦めない意思が運命を左右
する、そんな戦場の論理がリアルだった。
(福本次郎)