◆大脳の特定部位に電気的刺激を与えると、幽体離脱が起きる。幻覚なのか現実なのか、新たな進化のステージととらえる女医とその誘惑から逃れられない若い研修医の葛藤がホラー映画の常識を超えた衝撃を生む、はずだったが・・・。(40点)
大脳の特定部位に電気的刺激を与えると、幽体離脱が起こる。意識は体内から乖離し、遠く離れた場所の情報を集めて戻ってくる。幻覚なのか現実なのか、人間の新たな進化のステージととらえる女医とその誘惑から逃れられない若い研修医。霊界と現世、生と死のはざまで繰り広げられる母娘の葛藤がホラー映画の常識を超えた衝撃を生む、はずだった。しかし、科学と心霊現象の混同が著しく、肉体と魂の定義も曖昧。何より死後の世界を真っ白な光でごまかしてしまったのがいけなかった。
被験者を開頭し、電極を差し込む実験を撮影した古いフィルムを見ていた医師の悦子は、その姿を娘のみゆきとかおりに見とがめられて失踪する。17年後、研修医となったみゆきは集団自殺を図るが、それは悦子が被験者を集めるための罠、実の母に実験台にされたみゆきは行方をくらまし、そんな姉をかおりは必死で探す。
窓のないうす暗い部屋で目覚めたみゆきが感じる“自分は死んだ”という宙に浮いたような感覚がシャープに描かれる。看護婦に血圧を測ってもらっているのに、その看護婦に「そう見える?」と問われ、棺桶に入った己の姿を確認してやっと死んだことに納得する。この、頭がボーっとした状態で偽の現実を押しつけられる場面が、我々が認識している他者や外界との関わりなど所詮脳内で起きた化学反応に過ぎないことを物語る。
だが、その後のエピソードは、監視カメラ付きの個室に監禁しているにもかかわらずみゆきともうひとりの自殺志願者・リエコが実験病棟を脱出したり、事件を追う刑事が悦子の部下に殺されたりと、ただ思い付きを映像にしているだけの脈絡のなさ。さらに処女なのに妊娠したリエコが “あの世”を出産するなどという、壮大かつまったく怖さを覚えないシーンには首をかしげるばかりだ。結局、練炭自殺をはかったみゆきが今わの際に脳内に起きたビジョンというオチなのか。「恐怖」とタイトルに謳うのならば、もう少し人間の心理のメカニズムを研究した方がいい。
(福本次郎)