恋する彼女、西へ。 - 前田有一

キャリアウーマンと帝国軍人の、時をこえた恋物語(55点)

 『恋する彼女、西へ。』は、明るい話を作ろうというコンセプトのもとに作られた。なぜかというと、この映画の舞台が広島だから。これまでヒロシマの映画というと、どうしても原爆被害の悲惨なイメージがつきまとう、暗いムードのものばかりであった。だからこの映画の制作者たちは、このような前向きで暖かいドラマを作りたかったのだ。

 建築会社で働くキャリアウーマンの杉本響子(鶴田真由)は、出張中の広島でバイクと事故を起こしそうになった男を救う。「矢田貝少尉」と名乗る白軍服を着たその若者は、昭和20年8月3日から突然ここに来た、などと狼狽している。あきれる響子ではあったが、病院などの世話をするうちに、矢田貝のヨタ話を信じざるをえない出来事が起こる。

 古いフィルム映画風の外見ではあるが、中身はバブル期のトレンディドラマのごときロマコメ。不思議な作品である。

 原爆投下直前の広島から、現代の広島にやってくる帝国軍人。SFとはいえ、なかなか骨太な設定だ。しかし、タイムスリップものとしての整合性や、戦中男性の価値観に対する視点はかなりテキトーかつ薄味。

 語り口がテレビドラマの軽さであるから、ところどころにご都合主義が配置され、悪びれもせず展開する。ただ、おかげで進行速度はきわめて早い。この割り切りが、意外なほど好ましい。

 男性の心理描写や、背景となる歴史問題にはさほど固執しないわりに、セックスシーンは妙に生々しい。このあたりは、いかにも女性脚本家(NHK・朝の連続テレビ小説「さくら」の田渕久美子)らしい。結末も、男だったらこうするだろう、と予想した落としどころを平然と無視、楽しませてくれる。

 なにより、ヒロイン鶴田真由が生き生きとしていて共感できる。ツンデレ熟女というこの新機軸を、私も大いに気に入った。

 戦争について言い合う場面で、肝心の矢田貝少尉がまるで戦後民主主義を受けたヒトにしか見えないなど、首をひねる部分も少なくないが、女性向けロマコメと思えば別になんてことはない(ちなみに矢田貝亨という軍人は実在の人物)。

 なにより、原爆や戦争をたくみに物語に取り入れながらも暗い雰囲気にせず、広島らしいラブストーリーを作ったことを高く評価したい。21世紀の今、広島の街並みはとても明るく、活気に満ちている。意欲的な挑戦だったが、決して失敗はしていない。

前田有一

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