◆「悪魔の凶暴パニック」を思わせるパニック・ホラー「ツキモノ」と正統派Jホラー「ノゾミ」。ホラー・マニアの篠崎誠監督による、対極的な2本立ては、どちらも一筋縄ではいかない面白さがある(68点)
篠崎誠監督はホラー・マニアである。ホラーを巡って、黒沢清監督との対談本を出しているくらいだ。その篠崎監督が、期待通りの一筋縄ではいかないホラーを見せてくれた。
「ツキモノ」と「ノゾミ」の2本立てだが、どちらもアイドル・真野恵里菜を主演に使いながら、対極的なホラーになっているのである。
「ツキモノ」は、小中千昭らが作り上げたJホラーの恐怖の方程式、いわゆる「小中理論」と全く逆を行く試みだ。白昼のキャンパスで、何ものかに取り憑かれ、ゾンビのように顔が変化し、怪物となった女子学生が、全速力で走って追いかけてくる。授業が行われていた教室から学生たちが叫びながら逃げていく場面は、まるでパニック映画ではないか。篠崎監督が好きだという、ジェフ・リーバーマンの「悪魔の凶暴パニック」(1976)を思わせるのである。夜になって、主人公を怪物が後ろから走って追ってくるカットは、あの名作「悪魔のいけにえ」(1974)を髣髴させる。一方で、天井から落ちてくる怪物には怪談映画の伝統の演出を感じた。
黒沢清監督は「ツキモノ」を「アメリカン」と評しているが、まさに70年代米国ホラーの異様な暴力性が感じられる作品だった。劇場未公開作ではあるが、松村仁史の「鬼殻村」(2009)とも似た印象を受けた。
これに対し、「ノゾミ」は正統的なJホラーを思わせる作りになっている。主人公に幼い頃に起きた事件が原因で、少女の霊がまとわりついてくる。冒頭の湖が、「13日の金曜日」(1980)のクリスタルレイクを思わせるが、母と娘の関係をじっくりと描いて、バイオレンスではなく、心理的な怖さを強調している。こちらもかなり実験的な作品で、ホラーとしてはある意味、禁じ手をやっている。本来なら、必ずもう一捻りあるところを、わざと捻らない。ホラーとしてのクライマックスを外すことで、母娘の関係にクライマックスを持っていく。いわば、本来エピローグの部分が、クライマックスになっているのである。それはこの作品については成功していると思う。
Jホラーの楽しみの一つはフレッシュな美女だが、真野恵里菜はタイプの違う2作品で主役を演じていて、どちらも魅力的だった。特殊メークについてはやや不満もあるが、ホラーが好きな人にとっては、面白い2本であることは間違いない。
(小梶勝男)