カルト監督・井口昇がアイドルグループ・スマイレージのメンバーを主人公に手掛けたオムニバス・ホラー。アイドル映画としても成立させつつ、井口監督らしい恐怖と笑いの世界を作り上げている(点数 70点)。
(C)2012「怪談新耳袋 異形」製作委員会
「怪談新耳袋」はこれまで、テレビ版、劇場版とも質が高く、Jホラーを中心に現在の映画界を担う新鋭の監督たちによって、様々に実験的な試みが行われてきた。その最新作を、「片腕マシンガール」「富江 アンリミテッド」のカルト監督・井口昇が手掛けた。
四つの短編からなるオムニバスで、それぞれにアイドルグループ・スマイレージのメンバーが出演している。
第1話「おさよ」は、新人アイドル(和田彩花)がグラビア撮影で山奥の旅館に泊まり、霊に襲われる正統な怪談話。第2話「赤い人」は、妹(勝田里奈)とその彼氏を迎えるため、ケーキを作っていた姉(竹内朱莉)が、なぞの赤い人に襲われる。
異星人の侵略SFのようでもあり、不条理ホラーのようでもある。
第3話「部屋替え」は両親の部屋と自分の部屋を替えた少女(福田花音)が、三面鏡の怪異に悩まされる。
第1話から第3話は、第4話「和人形」で一つにつながる。友人(和田彩花)のアイドルデビューを祝うため、廃墟に集まった少女たちの前に、奇怪な人形が現れる。
「怪談新耳袋」シリーズは、「実話系」と呼ばれる、実話を基にした、あるいは、基にしたという設定の怪談だった。
だが、シリーズが進むにつれ、実話のリアルさだけでなく、様々な恐怖が描かれるようになった。
井口監督は今回、第2話を除いては、実話系の基本に立ち返り、古典的な因縁話をそろえたように思える。その一方で、スマイレージを使ったアイドル映画としても成立させようとしていて、その融合によるギャップが面白い。
スマイレージのメンバーたちには、わざとほぼ棒読みのように、セリフを言わせている。
しかも、カメラに向かって独白で状況を説明させることも多い。
顔のアップも多用し、アイドルの怖がる表情をきっちりとおさめている。
映画の中の「役」よりも、それを演じるアイドルの存在を意識させるような演出だ。
その結果、我々が見ているのは、「霊に襲われる新人アイドル」ではなく、「霊に襲われる新人アイドルを演じる和田彩花」だと思わせられる。
普通、それでは物語に没頭できず、リアルさも失われてしまう。
例えば、「SPACE BATTLESHIPヤマト」で、「古代進」が「古代進を演じる木村拓也」にしか見えなかったように。
だが、今回はそのような演出だからこそ、アイドル映画として成功しているのだろう。
話の骨格は実話風でも、演出は実話としてのリアルさを放棄している。
その代わり、お化け屋敷的な派手さで、怪異をどんどんと見せてくれる。
突然現れる化け物には驚くが、怖いと同時に、やりすぎとも思える演出は笑いも誘う。
恐怖と笑いが一体となったシュルレアリスム世界は、いかにも井口監督らしくて楽しい。
美少女たちをアイドルとして描きつつ、その本質は、アイドルの世界のどす黒さや、少女の心の闇だ。
「おさよ」では、少女の優しさは芸能界(と心霊界?)で仇になってしまう。
「赤い人」は、どことなく、彼氏のいる妹への姉の嫉妬が感じられる。
「部屋替え」の少女は、両親の身勝手さを知ることになる。
「和人形」は、現実のアイドルグループ内での足の引っ張り合いを思わせる内容だ。
そうした無意識化の不満や嫉妬が怪異として表現されているからこそ、実話系のリアリズムはなくても、納得させるものがある。
その別次元のリアリズムが、巌谷国士の言う本来の意味でのシュルレアリスム(「超現実」ではなく、「過剰なまでの現実」)なのだろう。
井口作品でいえば、「富江 アンリミテッド」「ゾンビアス」に比べるとパワーは落ちるが、彼らしい才気は十分に感じられた。
(小梶勝男)