ラジオ好きのための感動群像ドラマ(70点)
ラジオファンにとって、パーソナリティーとは憧れの存在。なまじ声しか聞こえないから、妄想いや想像によっていくらでも膨らませることができる。一家団欒でラジオを囲んで食事する人などいないように、このメディアは出演者と一対一で向き合うような、パーソナル感が最大の魅力である。パーソナリティーとの距離感は、テレビとは比較にならないほどに近い。
父親の反対を押し切ってパーソナリティーになった久保田真生(常盤貴子)は、和解できぬまま死別したことが心の傷となっている。彼女はあるとき「父と祖父が長年喧嘩して険悪だ」との番組宛の手紙に目を留める。送ってきたのは函館の男子高校生(林遣都)。自身の境遇に重ね、助言の言葉が見つからなかった真生は、思い切って少年をたずねていく。
常盤貴子のように美人で美乳のパーソナリティーが突然たずねてくるとは、まさにラジオファンの願望かなったりである。そこで彼女は、一家の複雑きわまりない確執をほどこうと身を投じ、一騒動起こすことになる。
これとは別に、彼女の父親からの「投函されずに封をされたままの手紙」が重要なアイテムとして別筋から絡む。ほかにも単身赴任中のタクシードライバーや、シングルマザーになることを決意した妊婦など、「最後に泣かせるので覚悟の程よろしく」といいたげな設定のキャラクターが多数登場する。
函館、そして東京で、クライマックスのラジオ番組とともに彼らのドラマはラストシーンを迎える。観客の涙を誘うダイナミックな構成だ。
一歩間違えば、よってらっしゃい見てらっしゃい、お涙頂戴いたしやすの世界になるところだが、テレビ出身の三城真一監督が「シンプルに演出した」と語るとおり、わざとらしさを感じさせない映像が大成功。たとえば、一番大事なある人物のある表情を、この監督は映さない。代わりに背中を写すのだが、それでも見た観客の脳内にはちゃんとその俳優がどういう顔をしているかがわかる。監督のセンスの有無が、こういうところに出る。
J-WAVEで実際に撮影された局内映像も、ラジオ好きには興味深いサービスか。常盤貴子は声もきれい。性格のよさがにじみでるような、優しい雰囲気が役にぴったり。テレビより、やっぱりラジオがいいんだよなぁ、ってな人にすすめたい。
(前田有一)