◆逃れられない運命にからめとられていく市の定めは、あまりにも切ない(55点)
生活感あふれる座頭市という視点が新しいアクション時代劇だ。市は盲目の流れ者で剣の達人。数々の修羅場をくぐってきたが、愛する妻タネのため、人を斬る生活を捨てて静かに暮らすことを決意する。しかし、市を追うヤクザとの戦いでタネが命を落とす。身も心も傷ついた市は、故郷の村に辿り着き、旧友の柳司のもとに身を寄せ、百姓として暮らし始める。村を牛耳る非道な天道一家に苦しめられる村人は、市に助けを求めるのだが…。
座頭市といえば言うまでもなく故・勝新太郎の当たり役で、近年、他の俳優で何度か映画化されてきた。この役は、勝新のイメージからどれだけ離れられるかが成功のカギとなる。香取慎吾は残念ながら、そして当然ながら勝新の立ち回りにもとぼけたユーモアにも遠く及ばない。だが本作の新しい点は、市の背景に一般人と同じ生活感を持たせたことだ。居合斬りの名人で博打好きという設定はそのままだが、女房もいればカタギの友人もいる。昔好きだった女性も登場し、市の人生がぐっと身近に感じられる。百姓として静かにまっとうに生きたいと願っても、逃れられない運命にからめとられていく市の定めは、あまりにも切ないものだ。意思に反して人間の命を奪いながら暗闇に生きる市に対し、狂気を秘めたヤクザの親分・天道はまるで底なしの白い闇。演じる仲代達矢の演技が圧倒的だ。男の熾烈な世界を活写するのを得意とする阪本順治監督だが、本作ではラブストーリーをベースに描いている。竹藪の中での斬り合いや、雪の中でのクライマックスなど、映像はシャープで美しいが、四季折々の風景のおだやかな映像が印象に残ったのは、そのためかもしれない。
(渡まち子)