◆医者にとっても患者にとっても希望を与えてくれるヒューマンドラマ(55点)
何かと問題の多い医学界にあって、実力と人徳を兼ね備えた主人公はまるでスーパーヒーローだ。1989年のある地方都市の市民病院に、外科医の当麻鉄彦が赴任してくる。見栄や体裁ばかりを気にする病院の悪しき体制に不満を感じながらも、優秀な外科医である彼は、困難なオペを成功させ、患者を救うべく全力を尽くし、病院のスタッフの信頼を勝ち得ていく。一方、当麻の存在を疎ましく思う医師もいた。そんな中、病院を支えてきた市長が倒れる。当麻は前例のない成人から成人への生体肝移植をすべきかどうかの選択を迫られるが…。
この物語には地域医療の実態と、臓器移植という2本の柱がある。大学病院に依存しなければ運営が成り立たない市民病院の現状、医療ミスとその隠蔽、患者への不誠実な対応。何より最初からあきらめているかのような病院の体質。これらは決して完全なフィクションではないだろう。原作者の大鐘稔彦は現職の医師ということもあり、病院や手術の描写にはリアリティが感じられる。その一方で、主人公の当麻の存在が、良くも悪くも理想的すぎて、現実感を欠いてしまうのだ。天才的な医師で素晴らしい人徳者。こんなお医者様がいればどんなにいいか。だがこの物語の個性は、そんな突出した医師でも、たった一人では何もできないと訴えていることだ。主人公を支える周囲のスタッフは、決して天才的な医師や看護師ではない。当麻の存在によって医療そのものを見つめなおしていく努力型の人間たちが、主人公をサポートしている点に、物語の誠実さがある。だがもう一つの柱である肝臓移植に関しては、あまりに描写が浅い。ドナー提供というデリケートな問題をあっさりとスルーするので、考える余地さえなかった。それでも、物語には、医療現場で懸命に働く人間たちの姿や、命を救うという根源的な使命に燃える人々の崇高さがある。医者にとっても患者にとっても、希望を与えてくれるヒューマンドラマだ。
(渡まち子)