新鮮な驚きと強烈なインパクトに瞬きするのを忘れてしまった。(点数 70点)
(C) Vivo film,Essential Filmproduktion,Invisibile Film,ventura film.
きとし生けるものはすべて死ぬ。だが死は終わりではなく、命のリ
レーという形で次の時代に受け継がれていく。それは食べたり生殖し
たりするだけでなく、日々の暮らしの中で家畜を育て、消費し、再利
用することでもある。中世のたたずまいを残す小さな村を舞台に、人
と動物と植物、あらゆる生き物には必ず存在意義があると説く。一切
の説明やセリフ、音楽を排し長まわしを多用したドキュメンタリーの
ような手法は、時に退屈を覚えるほど変化に乏しい。しかし、映像と
自然の音のみで表現しようとする試みはイマジネーションを刺激する。
ヤギの放牧をする老人は、乳を売って日々の糧を得ている。群れから
はぐれた一匹の子ヤギは楡の大木の根元で息絶える。斬りだされた楡
の木は、村祭りに使われた後、小分けに切断され木炭に加工される。
老人の家とヤギの囲いの間の細い坂道を復活祭の行列が通り過ぎたあ
と、子供に吠えていた一匹の犬がトラックの車止めをはずし、後退し
たトラックがヤギの囲いを壊す。そうした一連の長い長い動きをカメ
ラは1カットに収める。何が起きるかわからないスリリングさと、この
シーンの意図がつかめるまでの静謐で冗長な時間が絶妙の対比となっ
て、思わずスクリーンにのめり込んでしまった。
特殊効果でもCGでもないが、「そこにある何気ない風景」を装ったす
さまじいまでの作り込みは、まさに“今までに見たことがない映像”。
新鮮な驚きと強烈なインパクトに瞬きするのを忘れてしまった。
(福本次郎)