◆何のとりえもないのを自覚しているOLがAVの世界で未知の自己を“発見”していく。誰からも必要とされていなかったのが、周りにおだてられる快感。褒められているうちにユニークなキャラを構築していく過程が楽しくも切ない。(60点)
家では母に邪険にされ、会社では要領のいい後輩の陰で存在感が薄い。そんな、何のとりえもないのを自覚しているOLがAVの世界で未知の自己を“発見”していく。誰からも必要とされていなかったのが、周りにおだてられ頼られ慕われている快感。褒められているうちに、彼女にしかできないユニークなキャラを構築していく過程が楽しくも切ない。孤独と不安を抱えながら必死で生きていこうとするヒロインを安井紀絵が好演。映画は、大量に“女優”が使い捨てにされる AV業界の現実に触れつつ、そこにしか居場所を見つけられなかった女の絶望からの再生を描く。
「人生なんてちょっとのきっかけで変えることができる」。スカウトマンの言葉に乗せられた純子は、アニメコスプレのルルとなって売り出す。ハードプレイもこなすうちに単体女優に昇格するが、同時にストーカー被害にもあい、勤務先にAV出演がばれてしまう。
望まぬ子として生まれたゆえに母に愛されずに育った純子は、常に他人の目をうかがうようなところがある。それがルルの人格に入れ替わった途端に物おじしない堂々とした態度になる。ルルとは、自分ではない自分なのか、本当の自分なのか本人にも理解できていない。ただ、ルルに変身するおかげで、純子にも“やればできる”自信が芽生えたのは確か。己が変われば周囲も変わる、大切なのはちょっとしたチャンスと少しの勇気。スカウトマンの常套句と分かっていてもすがりついてしまうのは、どうしようもなく現在の状況に嫌気がさしていたから。ナンパに等しいスカウトも純子には奇跡的な巡りあいに思えたに違いない。
やっと見つけた心地いい環境も、居続けるには競争に勝ち残らなければならない。せっかくできた親友は妊娠でその場所を追われてしまう。ルル自身、ここで長く人気者にとどまっていられるとは思っていない。それでも息の続く限り走り続けようという覚悟と決意を示すラストシーン、彼女の未来にわずかな希望を見出せた。
(福本次郎)