千年の祈り - 前田有一

◆中国人とイラン人とロシア人がアメリカで(70点)

 『千年の祈り』は、アメリカの中で、中国人とイラン人が仲良くするというお話。いうまでもなく、前者は不況の米国がいまもっとも頼りにする経済大国。一方、後者のイランは軍産複合体による次期大規模公共事業の現場候補の筆頭である。

 どちらも完全なる友好国とは言い難いが、アメリカにとって不可欠なパートナーであるわけで、そんな構図を持つ本作に私は強く興味を持った。

 アメリカで離婚したばかりの娘(フェイ・ユー)を心配して、12年ぶりに北京から父親(ヘンリー・オー)がたずねてきた。だがアメリカ生活にすっかりなじみ、中華なべさえ持たぬ娘はもはや、父親とまったく心を通わすことはない。そんな状況を嘆きつつも、父親は日々散歩にでかけ、娘が暮らすこの国を知ろうとする。やがて彼は、隣人のイラン人女性(ヴィダ・ガレマニ)と知り合い、ほとんど通じぬ英語で交流を始めるが……。

 根が陽気な中国人はどこにいってもすぐ友人を作ってしまうといわれるが、このお父さんも頑固ながら、どこか憎めないチャーミングさを持っている。英語が離せないくせにまるで臆する様子もなく、プールで日光浴する法医学を勉強中のビキニギャルやら自称・元CIAのおじさんといった個性的な隣人たちと積極的に話をする。彼らとの会話の内容はどこか唐突な話題ばかりだが、それもそのはず。その多くは、なんと演じる役者たちの実際の体験談ということだ。

 そんな奇妙な日中を過ごした後、夜は帰宅した娘と中華料理を食べながら、会話の少ない気まずい時間をすごす。12年の時と、米中の物理的距離、そしてそれ以上に離れてしまった価値観の差を、彼らは生めることが出来るのか。

 この映画は説明が最小限だから、ある程度の知識がないと理解しにくいシーンが登場する。たとえば序盤、英語に疎い父が kum の意味は何だ、と娘に問う場面は、それがエロ系の隠語だと知っていれば、娘のウンザリ感を感じ取れる。

 また、スーツケースに結ばれたスカーフを見て娘が「よく入国できたわね」と皮肉をいう場面がある。ここで観客には、この父親がかつて紅衛兵であった事がわかる。紅衛兵とは文化大革命のいわば加害者側。天安門広場で若者たちをぶち殺していた側といえばわかりやすいか。父親の元から離れ、自由と民主主義の国アメリカに娘が移住した理由、そして父親をどうやら快く思っていない理由が、ここでそれとなく提示されているわけだ。

 個人的に気に入ったのが、この父親とモルモン教の宣教師が不毛なやりとりをする場面。よりにもよって中国共産党とは、布教するには世界最悪の相手である。このかみ合わなさは、もはや笑うほかない。

 中国、イラン、やがて途中からロシア人まで絡むこの奇妙なドラマの終結点ははたして?

 予想を超えるほど心震える、深い感動を与えられるラストシーン。流れるギターの旋律がよく似合う。鑑賞後に、たいへんいい気分になれる人間ドラマであった。

前田有一

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