◆沈んだブルーを強調したトーンはリアルよりも様式美を追求し、銃弾と血しぶきが舞うシーンは怜悧な心の痛みを感じさせる。友情よりも深い絆で結ばれた男たちの運命を共にしていく過程が、切なくも豊饒な死に昇華されていく。(60点)
一度交わした約束は必ず果たす、たとえその先に破滅が待ち構えていても。沈んだブルーを強調したトーンはリアルよりも様式を追求し、銃弾が飛び交い血しぶきが舞うシーンの数々は残酷さよりも怜悧な心の痛みを感じさせる。自分の命よりもプライドを大切にするアウトローたちの、手にした拳銃で会話するかのような“男の世界”は洗練されたスタイルを持ち、映画はひとりのフランス人の復讐劇を通じて中国人が重んじる武侠の精神を描き切る。友情よりももっと深い絆で結ばれた男たちの運命を共にしていく過程が、限りなく切なくも豊饒な死に昇華されていく。
マカオに住む会計士一家が襲撃され母親がけが生き残り、彼女の父・コステロは復讐を誓う。偶然、仕事中の3人組の殺し屋を見かけたことから彼らに助力を求め、さっそく香港にいる実行犯にたどりつく。しかし、コステロは突如古傷の記憶障害に襲われる。
コステロと殺し屋たちが射撃の腕を見せるために原っぱで自転車を標的にする場面が素晴らしい。お互いの技量を確認し合った後その場を立ち去るのだが、画面の端を無人の自転車が走りぬけるという芸の細かさ。義兄弟の契りは絶対、そしてそこにコステロも加わったことを明示する見事なメタファーだった。また、実行犯グループ3人組を見つけてもすぐには襲撃せず、彼らが家族とのバーベキューを終えるまでじっと待つ。堅気には決して手を出さない律儀さを通じて、黒社会の暗黙のルールをきちんと守る姿は彼らの生き方へのこだわりなのだろう。男の魅力的な体臭が強烈に漂うエピソードだった。
やがて、記憶障害のコステロを知人に預け、3人の殺し屋はより強大な上部組織のギャングと闘う。その際も、古紙のキューブに身を隠しながらの銃撃戦。ここでもカメラに余情をたっぷり含ませ、絶体絶命のピンチになっても口元に笑みを浮かべて息絶えていく「滅びの美学」を見せてくれる。それは、西洋もしくは日本の価値観とは相いれないイマジネーションに満ちているだが、キューブを転がしながら殺し合いをする非現実的な映像は、死すら美しくクールものとして甘美なメロディを奏でていた。
(福本次郎)