保守おじさん特有の痛さが出まくり(40点)
しばしば本人が語るとおり石原慎太郎の本業は作家であり、弟である大スター裕次郎の主演映画の脚本などを中心に、古くから映画作りにもかかわっている。しかし若い人にとって彼の名はまず東京都知事であり、過激なタカ派政治家とのイメージが先行しているに違いない。だから今回、彼が脚本と製作総指揮を担当したこの特攻隊映画に対し、意外かつ新鮮な思いを抱いているのではないかと私は推測する。
大東亜戦争の末期、追い詰められた日本軍はついに特攻作戦を敢行する。鹿児島県の知覧には、各地から集まった若き隊員が最後の日々をすごす陸軍特攻基地があった。そこで食堂を経営し、特攻の母と慕われた鳥濱トメ(岸惠子)は、無力ながらも彼らを暖かく見守り、献身的に世話し続けていた。
鳥濱トメさんは、石原知事とも親交があった実在の人物。その石原都知事による脚本は、彼女が生前のこした貴重な証言へ忠実に、たくさんのエピソードを詰め込んだ群像劇となっている。朝鮮人ながら志願し、堂々と飛び立っていった青年から、わずか10代で太平洋の藻屑と散った少年まで、実話ならではの重さが胸を打つ。
大勢の隊員とトメさんの交流の話にくらべればウェイトは少ないが、特攻なんてモノがなぜはじまったのか、最初の隊員はどう選ばれたかなどいわゆる歴史解釈に属するような内容も含まれる。整備不足で出陣前に事故で無駄死にするなど、特攻の愚かしい面も逃げずに描いた点は、保守派の石原慎太郎による映画としてはなかなか公平だな思えるところ。
しかし、随所に感じられる「イタさ」はいただけない。まずなんといってもタイトルが痛い。B’zの歌じゃあるまいし、このみっともない題名は何なのか。……と思ったらこの映画の主題歌はそのB’zであった。歌ならいいが、映画にこのこっ恥ずかしい題名はない。
中身も痛い。無理して保守色を出そうとして、ことごとく失敗している。たとえば流れからスッポリ浮いている「靖国で会おう」発言のわざとらしさ。そして原作のハイライトでもある蛍が舞う場面あたりの演出センスの欠落振り、時代遅れぶりは目を覆わんばかりだ。
だいたい特攻隊員の内面の葛藤をメインテーマにした映画をタカ派の石原慎太郎が映画にする時点で間違っている。隊員、すなわちミクロ視点で特攻を描けば、左翼だろうが右翼だろうが似たような悲劇になってしまうのは当然。まさか「英霊たちはみな勇敢に迷わず自ら飛び立っていった」なんて嘘をつくわけにはいかないのだから。
むしろ石原氏のような保守派が特攻映画を作るなら、この映画があまり触れていない歴史解釈の側面、つまり世界史の中で特攻とはどう位置づけすべきなのかという点をメインにすべきだった。そうしていれば、「特攻は残酷なものだ、無駄死にを強制した非人道的な行為だった、でも各隊員らは任務をまっとうして立派だった。やっぱり戦争はよくない、やめよう」という馬鹿げたメッセージしか言えない左翼映画人に差をつけることができた。
いまや左翼的映画人の代名詞たる『パッチギ! LOVE&PEACE 』の井筒和幸監督は、露骨にこの映画と石原氏を名指しでライバル視し、相変わらずメディア使いがうまいなと感心させたが、映画作りのうまさにおいても今回は上回ったなと思わせる。どちらも決して洗練された現代的な映画ではないが、井筒監督のそれはパワフルで堂々としているのに対し、こちらはただ古臭いだけだ。マンション特攻の生き残り、窪塚洋介らがいかに見事な役作りを見せたとしても、その差は決してうまらない。
(前田有一)