◆持って生まれた心臓には宿っていない情けという気持ちが、金属の心臓には備わっていた皮肉。映画は主人公の心境の変化と、彼に降りかかる危険を振り払う過程を通じて、人格を損なわずに心を入れ替えることが可能かを問う。(50点)
“heart”とは、体に血液を循環させる臓器であると同時に喜怒哀楽や善悪愛憎といった感情の拠り所。職務上の任務であれば冷酷に徹していた主人公が、人工心臓を移植されると人の命を奪えなくなる。持って生まれた心臓には宿っていない情けという気持ちが、金属の心臓には備わっていた皮肉。映画はそんな男の心境の変化と、彼に降りかかる危険を振り払いつつ真実に近づいていく過程を通じて、肉体の機能は機械に代替させると同時に、人格を損なわずに心を入れ替えることも可能なのかを問う。しかし、歪んだ世界では正義や良識が排除の対象になるのだ。
人工臓器を製造・販売するユニオン社のもとで、不良債務者から臓器を回収するレミーは、親友のジェイクとともにトップクラスの回収率を誇っている。ある日、レミーはミュージシャンの心臓を回収中に事故で失神、気がつくと人工心臓を移植されていた。
移植後、回収作業が困難になってしまったレミーは支払いが滞り、回収人の標的になる。その途中、ベスという全身人工臓器だらけの麻薬中毒者を救い、彼女と逃亡を共にする。ベスに対して抱いた思いは今までのレミーになかったもの。回収しようとしたミュージシャンが作曲中の曲も優しさに満ちていたが、ユニオン社製の心臓は移植された者の思考に人間らしさが生まれるきっかけを与えるのだろうか。追う身が追われる身になり、非情が厚情になるうちに、物語はバイオレンスと愛に満ちていく。
やがてレミーとベスは臓器の記録を消すためにユニオン社の内部に侵入する。そこでレミーが見せるナイフを使った格闘術が非常に洗練されている。動脈を切り急所を刺す、襲いかかる数人の警備員を流れるような動きで次々に仕留めていく。さらに糸ノコや金づちまで巧みに操り相手の戦闘能力を奪うシーンは詩情すら感じられ、殺戮のメロディを奏でるような美しさだった。その後、無事逃げ切ったと見せかけて、「衝撃の結末」至るが、この手のオチは少し食傷気味だった。そもそもレミーの心臓の代金も未回収なのに、人工脳の代金はだれが払うのだ?
(福本次郎)